パパ日記

生豆のポテンシャルとロースト

私がこの仕事を始めた23年前は、
ブルマン、キリマン、モカの時代で(今でもそうですが)、ローストはミディアムが大部分でした。当時は炭火焙煎やオールドビーンズなどの全盛期で、一部深めのローストもありましたが、全体としては2度目のハゼ以上深くローストされたコーヒーはほとんど流通していませんでした。

 
私は、その当時からシティ、フレンチローストを中心に販売しました。
フレンチローストでも焦げたり、煙りの味がせず、生産地の個性が残るコーヒーつくりを目指したわけです。ですから、深くローストしても耐えられる生豆が必要でした。


そんな生豆は少なかったので、開業から10年後に独自に生豆を購入する方法を模索したわけです。スペシャルティコーヒーが生まれたからそれを求めたのではなく、自分に必要な生豆とスペシャルティコーヒーが重なったわけです。
多くのスペシャルティコーヒーは、標高の高い産地の酸とコクのしっかりしたコーヒーですのでキャラクターは明確なわけです。
そのキャラクターをどのように表現するかは、ロースターにゆだねられます。

 
しかし、ここで重要なことは、コーヒーのローストには多様性があり、様々なローストの楽しみがあるということです。

例えば下記は大きく香味が異なります

グァテマラと他の中米生産国、
グァテマラ・アンティグアとグァテマラの7つの産地
コロンビアの北部、中部、南部
東アフリカのエチオピアイルガチェフェとルワンダやブルンジ
ケニアの様々なファクトリー
等香味の違いは無限です。

実際に理解できるかといえば簡単ではなく、膨大なカッピングの経験が必要となります。


その違いの本質は、主には酸とコクにあり、その質によりローストの多様性や可能性が生まれます。
つまりは、どのローストにすればいいかは、生豆のもっているポテンシャルにより決まる訳です。

生豆を扱う初心者は、初めは一つのローストで試し、そのからや多様なバリエーションが可能か否かをさまざまに試しながら判断していくべきでしょう。
私は開店当初から、同じ豆をミディアム、シティ、フレンチと3種ローストして販売しました。
もちろん当時そんなことをするコーヒー会社や店は皆無でした。

 

スターバックスは、ミルクを入れて飲むことを前提としたような深いローストでしたが、やや浅いブレンドを作り飲みやすくはなりました。
アンチスターバックスとして2000年以降に成長した米国のサードウエーブは、浅いローストを特徴とし酸と甘みを表現しようとします。
北欧のマイクロロースターも同じですね。

しかし、ミディアムの浅目くらいのローストですのでものたりなさを感じてしまいます。ポテンシャルのある生豆を使用していますので、もっと多様なローストをして楽しむこともできると思います。

エルサルバドルのブルボンとアンティグアのブルボンが同じロースト度合いでいいわけがありません。生豆を勉強し、カッピングスキルが上がれば、考え方も変わらなければなりません。

 

したがって、サードウエーブのローストに影響を受けたが、それでは物足りないと感じるロースターも生まれ始めています。生豆のクオリティが上がれば上がるほど、画一的なローストでいいはずがないということが理解できます。

 

ケニアのような素晴らしい生豆の生産地でも、輸出会社は浅目のローストを推奨します。しかし、ケニアのニエリやキリニャガなどのテロワールのよい産地の豆は、複雑性があり、画一的にローストするのは感心しません。

ケニアは、レモン、パッションフルーツ、アンズ、さらにはベリー系のなど多様な酸がありますので、同じシティローストでも繊細なローストが求められます。
コーヒーの生豆を勉強していけばそのことが理解できるようになるでしょう。

 

くどいですが、ローストは、生豆のポテンシャルを最大限に表現する作業です。

サンプルローストで、酸やコクやさまざまな側面をチェックし、本番のローストをつなげ、少しずつ微調整して完成品としていくのが堀口珈琲のやり方です。