パパ日記

コーヒー生豆の賞味期限 3 ニュークロップ(New Crop)とパーストクロップ(Past Crop)

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ニュークロップ(以下NC)に対しパーストクロップ(PC:昨年収穫)、オールドクロップ(Old Crop:OC:収穫から2年以上)という区分があり、一定の保存状態で寝かせた豆を珍重する風潮もありました。

当時、水分値の高いブルーグリーンの生豆を横浜の港湾倉庫以外の湿度の低い他県で保管するというような事例もあり、
20年前まではコーヒー専門店の一部でOC(Old Beansと呼ばれるものも)を重視する全盛期がありました。
何か寝かすことで風味がよくなると考えられていたと思いますが、生豆の成分による風味がよくなるということはないでしょう。
また、当時は、焙煎機の熱量が不足し、水分値が高く、密度のある豆は焙煎がしにくかったということもあったと思います。

私の開業時には、生豆問屋は、入港後倉庫で半年くらい保存された生豆を出荷する事例が多くみられました。
私は、フレンチローストでもでも焦げ臭や煙臭のないコーヒーを作ることを目指していましたので、
当時のやや経時変化した生豆に対し、風味の本質があると考えられたNCを求めました。

 

この当時は、生豆に鮮度というような概念はなく、品質は、生産国の輸出規格(粒の大きさや欠点豆の数、標高)に頼るのみでした。風味に対する評価は、生産国、消費国共に主観的で、価値基準が形成されてはいませんでした。

1990年代の10年間は、様々な豆を試行錯誤しつつ使用した時代でした。
生豆の流通は、梱包材質は麻袋で、ドライコンテナ、常温倉庫保管が一般的でした。
したがって、夏場に麻袋(ブラジル60kg、中米諸国69kg、コロンビア70kg)をとると、倉庫で蒸れていた匂いがするのが当たり前で、店内でこの臭いに悩まされました。

この時の、いやな思いから、2004年以降は積極的にリーファーコンテナを使用するようにしていきました。
この当時は、ワインがリーファーコンテナを使用し始めた時期でもあり、
コーヒー業界では、理解されず、かなり奇異な目で見られました。

生豆の成分は経時変化により、総酸量、脂質量、ショ糖量は減少します。
標高が高く乾燥工程のよい生豆は、真空パック(VP)やグレインプロ(GP:穀物用の袋)を使用し、リーファーコンテナ(RC:定温15℃)を使用し、定温倉庫(15℃)に保管した場合は、日本入港後から1年近くは鮮度が保たれます。

しかし、梱包材質が麻袋、ドライコンテ(DC)での輸送、常温倉庫での保管の場合は有機物の減少は免れません。
風味はよりフラットの方向に向かいます。
中でも脂質の劣化を意味する酸価(Acid Value)は、もっとも風味に影響を与え、焙煎豆に枯れた草の味を生じさせます。

輸送条件、豆質などによりますが、SPの場合であれば、VP/RC/定温倉庫であれば1年間、GP/RC/定温倉庫であれば6~12か月程度であれば問題なく、DC/麻袋/常温倉庫であれば半年以内の使用が望ましく、それ以上の保存では成分が抜け、風味の劣化を招く可能性が増します。

麻袋/DC/常温倉庫で輸入されたCOの一部は、入港段階で劣化している事例も多々見られ、多くの場合、長期の鮮度保持は難しく、入港後速やかな使用が望ましいと考えます。

 

現在の優れたSPであれば、ブラジル産のNatural、イエメン産、ケニア産、マイクロミルのコスタリカ産などは18か月程度鮮度保持されますが、多くの生豆は、1年以内に鮮度劣化は免れず、枯れた草の風味に支配されます。
但し、生豆そのものの個体差、例えば硬質か軟質か? 繊維質の状態?などがありますので、その点は留意してください。

表は、コロンビのサンタンデール産のSP(同じ豆)の酸価(脂質の劣化)とSCAの官能評価の変化の一例です。
SPであっても、DC/麻袋/常温倉庫保管では鮮度維持は難しいことがわかります。

入港時 SCA 半年後 SCA 1年後 SCA
RC/VP/定温 2.4 84.75 2.5 84.00 2.6 82.00
DC/麻袋/常温 2.7 8.50 3.2 80.00 4.0 78.00

酸価が、4.0を超えると「枯れた草の味」を感知できます。

表は、ケニアのキリニャガ産(同じ豆)のpHの変化を見たものです。
ケニアは世界でも酸味の強いコーヒーですが、入港時に比べ、1年後と3年後は酸味がかなり弱くなっているのがわかります。
また、水分値の減少も見られます。

入港時 1年後 3年後 水分値
RC/VP/定温

RC/GP/定温

DC/麻袋/常温

4.73

4.75

4.80

4.83

4.83

4.89

5.50

5.60

5,60

9.4

9.4

7.8

ケニアの優れたSPは、総酸量の減少も少なく、保存性が高いと推測されます・

 

10年以上、20年間一定の温度と湿度で保管された生豆については、科学的な検証はされていません。
基本的には、総酸量酸、脂質量は減少し、風味が抜けます。
アミノ酸の組成が変化する可能性は捨てきれませんが、アミノ酸そのものも減少します。
有機物が大幅に減少し、フラットな風味となり、産地の個性やメリハリはなくなりますので、個人的には心地よいとは思いません。

分析数値は、筆者の実験によります。