たのしいコーヒー

ライブラリーブレンドができるまで〈後編〉

ライブラリーブレンドができるまで〈後編〉

営業部の高山です。

早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)のカフェ“橙子猫(orange cat)”で提供されている「Library Blend(ライブラリーブレンド)」の創作物語。前編ではコラボレーションブレンド誕生までの経緯をお届けしました。

今回は、ブレンドづくりからカフェのオープンまでをご紹介していきます。

 

イメージの共有


オレンジキャットで当社のコーヒーを提供することが決定し、いよいよオープンに向けて動き出しました。

まず、最初に取り組んだこと……。

それは「イメージの共有」です。

これまでの打ち合わせや横浜ロースタリーの見学では当社のスタッフやテレビカメラのクルーが立ち会っており、思っていることをあまり聞き出せていないように感じていました。まずは市原さんと2人きりで話し合う機会を設け、彼が頭の中で思い描いていることを教えてもらうことにしました。

 

ライブラリーで打ち合わせ


8月11日

 

当社から確認したかったことを箇条書きにしておき、それら一つひとつに対して、市原さんが思い描くイメージを聞きながら、これからどうやって形にしていくかを話し合いました。

・提供するコーヒーのメニュー
・抽出方法
・店舗で使用する機材
・オリジナルブレンド
・豆の販売
・ラベルのデザイン
・発注方法や支払い方法

などなど、話す内容は盛りだくさん。

この日の打ち合わせは3時間以上にも及びましたが、具体的にやるべきことが明確になり非常に有意義なものになりました。中でも、お店の核として「オリジナルブレンドをペーパードリップで抽出する」ということが決定したのは大きな前進。オープンまでの道筋も見えてきました。

 

メニューの組み立て


8月20日

<エスプレッソメニュー>

ライブラリーカフェにはフルオート(全自動式)のエスプレッソマシンと大型のドリップマシン(コーヒーブリュワー)が備え付けられていました。これらの機器は冷蔵庫や製氷機などの厨房機器と一緒に設置されたものということ。市原さんが思い描いていたセミオート(半自動式)のエスプレッソマシンとは違うものの、必ずしも経験のあるスタッフがカフェで働くわけではないことを考慮し、フルオートのマシンを有効活用していくことになりました。

マシンのスペックとしては充分なもので、エスプレッソメニュー(アメリカーノ、カフェラテなど)はこのフルオートのマシンで提供します。当社のエスプレッソブレンド(深煎り)をメインに、味わいの華やかなものも提供できるよう、2種のコーヒーを使用することにしました。
エスプレッソメニューはほぼ固まり一安心。

<ペーパードリップメニュー>

看板メニューとなるオリジナルブレンドはスタッフが1杯ずつペーパードリップで提供します。よって、備え付けられていた大型のコーヒーブリュワーはアイスコーヒーの仕込み用として活用することとなりました。

コーヒーを抽出するポジションにも拘りました。市原さんと相談し、カウンターの内側ではなく、客席から見えるカウンターの上で行うようにしたのです。
これによって、ちょっとしたステージのような空間で抽出を行うことになりました。
淹れ手にはプレッシャーがかかりますが、コーヒーが届くまでの “ただの待ち時間”が「おいしいコーヒーが出てきそうだぞ」と“期待に胸を膨らませる時間”に変わる効果も見込めそうです。

 

オリジナルブレンドができるまで


今回は市原さんから、当社主任ブレンダーの秦に「オリジナルブレンドを作ってもらえませんか」と直接の依頼がありました。

村上春樹さんの作品に造詣が深い彼女にライブラリーカフェで提供するのにふさわしいブレンドを表現して欲しい、というのがその理由でした。
それを受け、主任ブレンダーは「光栄です」と快諾。

 

オリジナルブレンドへの要望
・村上春樹さんに飲んでもらったときに気に入ってもらえそうな味わい
・浅めの焙煎ではなく深めの焙煎
・飲んだときに“驚き”が感じられる
・通年の提供が可能

 

これらの要望をしっかりと持ち帰り、早速ブレンドづくりに着手しました。

 

ライブラリーカフェにて試飲会


9月1日

市原さんからブレンドづくりの依頼を受けてから3週間後のこと。
ブレンドの提案をすべく、ライブラリーカフェを訪問。創り手の意図を過不足なく伝えられるよう、当日は秦にも同席してもらいました。

持参したのは配合が異なる2種のブレンド(A・B)。それぞれのブレンドをペーパードリップで抽出し、市原さんとスタッフの林楽騏さんに試飲してもらいます。林さんはカフェの立ち上げメンバー3人のうちの1人。まだ1年生ながら、自分の意見をしっかりと言える印象です。

まずはA。
明るく、華やかでスパイシーなニュアンスを感じる深煎りのブレンド。
香りを楽しんでもらい、その後ゆっくりと口に含みます。
2人が顔を見合わせ、笑顔。
「おいしい!」という言葉がこぼれます。
内心ドキドキしていた僕と秦も一安心。

続いてB。
フルボディかつ華やか、甘さが長く続きます。Aよりさらに少しだけ深煎りのブレンド。
こちらも香りを楽しんだ後に一口。
「こっちもおいしい!」

どちらのブレンドも気に入ってもらえたようです。

引き続き、2人にはAとBのコーヒーを交互に飲んでもらい、その間に秦から各ブレンドの素材や味わいについての説明、そして今回のブレンドコンセプトについて解説してもらいました。

【resonance “共振” 】という音楽に使われる用語をテーマとしたこと。

村上さんの作品から感じるエッセンス「(文章の)リズムの心地良さ」から“聴く”ように読んでいること。
ライブラリーのコンセプト「物語を拓こう、心を語ろう」から”自分の心の声を聴く”ということ。
その2つにブレンドを関連付けコンセプトとしたこと。
「本」「レコード」「コーヒー」などの「象徴」がきっかけを作って、広がり、やがて「象徴」に収斂していく、これを繰り返すといったイメージを表現したこと。
ライブラリーで過ごす時間が、resonance “共振” し合う時間となってもらえるよう想いを込めたこと。

 

少し冷めてからの味わいも確認してもらいます。

最終的に2人が選んだのは、明るく、華やかでスパイシーなニュアンスを持つ「A」でした。
飲んだ瞬間に華やかなインパクトをBより感じたこと。コーヒーを飲み慣れていない方をお客さんとして想定したときに、Aのほうが驚きを持ってもらえそう、という点が決め手になりました。

こうして完成したオリジナルブレンドは最終的に「Library Blend(ライブラリーブレンド)」と名付けられました。

 

 

スタッフ向け抽出トレーニング


9月6日

さて、ついに看板となるブレンドが完成。
次はいよいよお客様へ提供するための準備です。

このカフェの主役「Library Blend」は深煎りのコーヒー。オーダーを受けてからペーパードリップで一杯ずつ抽出します。ネルドリップで1杯ずつ抽出したら絵になるだろうな……とも思いましたが、60席あるオレンジキャットでは現実的でありません。そこで、KONOの円錐ドリッパーの使用を提案しました。

KONOの円錐ドリッパーはネルドリップを再現すべく作られたという開発秘話(?)があり、深煎りのしっかりとしたコクを表現するのに適した造りになっています。深煎りの「Library Blend」を抽出するにはもってこいです。

スタッフのみなさんに集合してもらい、いざ抽出練習。

 

 

提供するカップサイズに合わせてレシピを調整し、まずはいれ分けたコーヒーの試飲をしてもらいます。というのも、ペーパードリップはいれる条件によって味わいがブレやすい抽出方法。何が原因で味わいのブレに繋がるのかを実際に知ってもらうことが大切です。

下記の2パターンを同時に抽出して飲み比べます。

 

【1】最初に注ぐ湯量は少しずつ、徐々に湯量を増やしていく方法。
【2】最初に注ぐ湯量を過剰なくらい多くし、徐々に湯量を減らしていく方法。

 

同時に抽出を開始し、同じタイミングで抽出終了。

スタッフみんなで飲み比べます。【1】と【2】は明らかに味が違います。

最初に注ぐ湯量を少しずつにした【1】はコクがしっかり、酸や苦みにもメリハリが効いているのに対し、最初に注ぐ湯量を多くした【2】はコクに乏しく、全体的に平坦な味わいになっています。これにはスタッフも驚いた様子。そして、ペーパードリップの面白さ・奥深さを感じてもらえたようでした。

抽出方法によって味わいが変わることを理解した上で、練習に移りました。

大事なのは、
出来上がりのコーヒーをイメージすること。
毎回、抽出条件を揃えること。
そして、出来上がったコーヒーの味・香り・口あたりを確認し、次の抽出に活かすことです。

みんな飲み込みが早く、教えたことをどんどん吸収していきます。
加えて、市原さんがリーダーシップを取り、率先してスタッフに声を掛けています。
これなら大丈夫。安心して任せられます。

こうして、スタッフ向けの抽出練習は終了。
あとはオープンに向けて各々で練習に励んでもらいます。

 

メディア内覧会


9月16日

8月の横浜ロースタリー見学から慌ただしく過ぎた1か月。
ついにメディアへのお披露目の日がやってきました。

取材は当社広報の中川に任せ、僕はオレンジキャットへ。
何か困ったことはないか、などサポートしつつ、コーヒーの味わいチェックを行いました。この日の様子はテレビ・雑誌など各メディアで紹介されました。

 

もろもろ引き渡し~そしてオープンへ


9月30日

オープン前日、ライブラリーカフェへ訪問することに。
店内では翌日に向け、慌ただしい雰囲気。準備は着々と進んでいました。
石丸さんと林さんが中心となり、試作と試食を繰り返していたフードメニューもしっかりと間に合わせてあります。

 

カウンターに陳列された「Library Blend」

 

 

市原さんにコーヒーの発注方法・保存方法に関するあれこれをお伝えし、レシピの確認も完了。
店頭で掲示してもらうPOPとブレンダー秦から預かったメッセージを手渡しし、これにて、ひとまず、自分の役割は終了。建築家で例えるなら「引き渡し完了」です。

その後、これまでの道のりや大変だった話、いよいよこれからだね、というような話を少しだけ交わし、名残惜しさを感じつつもお別れをしたのでした。

 

ついにオープンの日


10月1日

台風16号の接近により、あいにくの荒天となった10月1日。
どうなることかと心配でしたが、予定どおりオープンしていることをSNSで確認し、ほっと一安心。初日から天候に恵まれなかったのも、ゆっくりとオープンするにはかえって好都合だったように思えます。

 

おわりに


カフェを運営する早稲田大学の学生と堀口珈琲の間にあった創作物語を前編・後編に渡ってお伝えしました。最後まで読んでくださったみなさま、ありがとうございました。

村上春樹ライブラリーを訪ねた際は、併設しているカフェ「橙子猫 – Orange Cat -」にも立ち寄り「Library Blend」を味わってみてください。
そのときには学生が一杯ずつペーパードリップで抽出してくれる姿にも注目してあげてください。きっとresonance“共振”を感じられると思います。

個人的には、市原さんを中心とした学生たちからパワーをもらった2か月間でした。これからエネルギーが切れそうになることがあれば、自分自身のパワースポットとして「橙子猫 – Orange Cat -」に充電をしに行こうと思います。

営業部 高山

 

【カフェ紹介】
オレンジキャット( 橙子猫 -ORANGE CAT- )
東京都新宿区西早稲田 1-6-1
早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)B1F
平日:10:00~17:00 土日祝:10:00~15:00
定休日:水曜日
※国際文学館は入館に予約が必要ですが、オレンジキャットは予約不要です。どなたでもご利用いただけます。

 

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