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あの人の仕事紹介 / 製造部:秦 はる香〈後編〉

あの人の仕事紹介 / 製造部:秦 はる香〈後編〉

 

前回(「あの人の仕事紹介/製造部:秦 はる香〈前編〉」)は当社のブレンダーの仕事内容と、その主任である秦(しん)のこれまでについてお伝えしました。今回は、秦が考える“堀口珈琲のブレンドづくり”について、深掘りしていきます。
 
 
〈 SEASONALS・FANTASIAを生み出すということ 〉
 
 
――SEASONALS(季節商品)とFANTASIA(特別商品)の作り方の手順を教えてください。
 
パターンが2つあります。ひとつはコンセプトを先に決めてからブレンドをつくり始めるパターン。もう一方は、ひとつのコーヒーの味わいから着想して味づくりを始めるパターンです。ブレンドづくりのきっかけを得るために何かを口に入れたら常に「風味の細分化」をしています。

 
――生活の中で、風味の細分化を常に考えているのですね。
 
ただ、おいしく飲んだり食べたりするだけではなく、その飲食の中で感じられるさまざまな風味を味わって分析することで、味づくりに関してのスキルや表現力を向上させることができると感じています。例えば、食材の斬新な組み合わせに出会いおいしいと感じたときに「なぜおいしいのか」を必ず考えます。
 
――日々の食事からもインスピレーションが与えられているということですね。ではもう一つの方の、ひとつのコーヒーの味わいから着想して味づくりをはじめる創り方はどうでしょう?
 
生豆の品質が年々向上しているため、年に何回か、カッピング時に衝撃を受けたり、直感としてブレンドに使いたい!と思う素材に出合ったりすることがあります。その素材に対して、さらに肉付けしていくこと。おいしい素材を、それ以上においしいものにつくったり、新しい味わいを体現していきます。いずれも、素材がよくなくては成せないことです。そういった生豆を調達してくれる現場には頭があがりませんね。
 
 

届いたサンプルチェックを行ってる様子。この時点で、どのブレンドに使用するかを検討しています

 
――以前、素材の味を常にストックしてかたちにすることを意識していると伺ったことがありますが、それって頭の中に蓄積させたものをどこかに書き留めているんですか?
 
すごいって思った素材は書き留めておかなくても、頭のどこかに常に漂っている感じがあります。数年前は、常に新しいコーヒーが入荷してくるタイミングで、必死に味わいをメモしていたけど、最近は農園との関係性も構築され、毎年入荷されるコーヒーに関しては数年前と比較した味わいについて記録する程度になっています。例えば「華やかな酸があってクリーミーな質感で、蜂蜜のような上品な甘さが心地よいコーヒー。#2、#4、#6に使えそう」など、特徴を書き留めておく。でも正直、メモを見返すことはあんまりなくて。多分書くことによって憶えているんだと思います。
 
――2019年以降、ブレンド“SEASONALS”・“FANTASIA” どちらもたくさんつくってきたと思いますが、その中でも自分が一番いいのができたなぁと感じるものや、思い出のあるブレンドがあれば教えてください。
 
こんなこと言うとアレですが……ありません(笑)。
毎回作りたい味ができたときにその瞬間だけ高揚して「いいじゃん。」ってなるんですけど、次の瞬間すぐに自信なくなるんですよね。つくったものに対しては忘れていってしまうタイプでして……。今つくっているブレンドが一番おいしいはずだ、とどこかでいつも思っているのかもしれません。

 
 

 
〈 主任ブレンダーとして 〉
 
 
――主任ブレンダーとして就任されたとき、嬉しさはありましたか?
 
いや不安しかないですよ(笑)。私はどっちかというと自信持ってどんどんつくるぞ!っていうよりは、自分でよいのか、という不安が強かったです。
 
――不安しかないというその思いが、おいしいブレンドを作り続けることができる理由なのかもしれないですね。不安だからいいものをつくるために細かな工夫や努力があって。不安を感じながら生み出したブレンドを社内スタッフに「おいしかった」と言われると嬉しいのでは?
 
とにかく安心しますね。嬉しいっていうのはあんまりなくて。緊張しているから、誰かに渡ってそれを喜んでくれる人の声を聞けたときにホッとします。
 
――うんうん。スタッフのみんなも、お客様も、ぜひ、おいしいと思ったらお伝えいただけると嬉しいです!コメントお待ちしています(笑)。では、これは愚問かもしれませんが、味づくりに限界を感じることはありますか?または、もっともっとたくさん溢れ出てくるよ、と思いますか?
 
うーん。限界はないんじゃないかなぁ。作り手が限界決めちゃったらだめかなって思います。ただ、自分がどれだけいろんな味を想像したとして、どんなに新しくて素晴らしいコーヒー豆が開発されたとしても、つくらなきゃいけないのは「おいしいコーヒー」だから。そこの軸はブラさないようにしたいですね。あとはね、創造力は溢れ出すことはないと思います。意識していないと着想なんて得られないかかなぁと思います。

 
――そうですよね。その意識が、常に、なんですもんね。あとは味のインスピレーションを受けることは、食以外で起こることはありますか?
 
やっぱり飲食が強いかなと思います。ただ、着想だけでいうと年間通して日常的に四季を感じること、例えば季節の食材を食べることや植物を観るなど。四季を通して、今、みんながどんなものを飲みたがっているかを意識して考えることはあるかもしれません。こんな気候の時は軽めのものがいいなぁとか、今だったら自宅にいる機会が多いから、もしかしたらコーヒー何杯も飲むことになると重たいものはしんどいだろうなぁとか。
 
――季節や情勢などから、どのようなコーヒーが求められているかを想像するのですね。ちなみに、いつもどんな時に味の組み合わせを思いつくのですか?
 
味の組み合わせはいつ思いつくかはわからないんですよ。シャワー浴びている時とか寝る前とかにハッとすることもあるし。「あれとあれ合わせたらいいんじゃない?!」って突然閃く。忘れている素材とかがふと思い出されるんですよね。主軸が決まっていて、それを活かすための配合で悩んでいる時とかに、ふっと思いだされる素材。あぁ、いたねぇ!ってなります。
 
――頭の中心ではないけれど、どこかに常にいるから、何かをきっかけにふっと浮かんでくるんですね。
 
ずーっと飲みながら、ああでもないこうでもないて悩むことはしないですね。そこからは出てこないことが多いから。1時間ぐらい飲み続けて、無理だなって思ったらその日はもう辞めます。
 
――それって学生の時もそうでした?勉強のときとか。
 
そもそも勉強していなかったからわかんないです(笑)。
 
――ふふふ(笑)。新しいブレンドをつくるときの行為って、何か他のことで似ているなって思うことってありますか?すごく難しい質問かもしれないけど。
 
考えようによってはどれにも通ずるなって思うんですけど、一番思うのは味噌汁作るときです。例えば食材をみて、蕪だったら出汁とらなくて酒と白味噌だけでおいしいだろうな、みたいな。この食材だったらかつお出汁とって、赤味噌と合わせ味噌でつくろう、とか。そもそも味噌汁が好きなんですよ!味噌汁作る時に、素材から組み合わせを考える行為はブレンドづくりに似ているなって思います。
 
――味噌汁とブレンド・・・!これは思いつきませんでした。今度味噌汁を作る時にわたしも意識してみようと思います。では、長くなりましたが以上でインタビューは終了です。今回は赤裸々に語ってくださってありがとうございました!
 
ありがとうございましたー。友達と銭湯行くのが妙に恥ずかしいのと同じですね、これ(笑)。
 
――たしかに・・・(笑)。すみません、秦さん大解剖って感じになりました。ありがとうございました!!

 


 
 
 


秦 はる香
2013年に堀口珈琲入社。2016年に上原店へ異動、焙煎を学ぶ。
その後、狛江店で焙煎を担当し、2019年に横浜ロースタリー製造部へ。
2020年より主任ブレンダーを務める。
 
製造部の”眼鏡の人”。
書籍から関連書籍へ掘っていくような、芋づる式の読書が趣味。
その他は、散歩、音楽、お酒、朝のラジオが好き。
 
 


 
これまで前編・後編とブレンダー・秦へのインタビューでした。
 
秦は、仕事の休憩中のわずかな時間でさえもいつも本を読んでいるような生粋の読書家です。そんな彼女から生まれる言葉は感性豊かでとても情緒的。ブレンドの味わいコメントからもその様は滲み出ていると思います。前編でお伝えしたとおり、ブレンダーに求められる仕事の一つに「味わいを言語化して伝える」ことがありますが、“読書”という趣味がその仕事に活きているのがよくわかります。
 
また、インタビューを通して感じたのが、秦の生活そのものがコーヒー・ブレンドづくりに繋がっているということ。365日どんな時もコーヒーのことを考えて生きるということ。“好き”を突き詰めて、日々努力を重ねて今のポジションに辿り着いた彼女は、社内からも一目置かれています。でも、普段はそんな素振りを見せず、飄々としたキャラクターでもある「ブレンダー・秦」も、また彼女の魅力の一つなのです。今回のインタビューでは、秦の仕事中の一面と、普段のユニークな一面の両方お伝えしたいと思いながら話を引き出したつもりです(伝わりましたかね……)。
実は、今回の記事では泣く泣くカットしましたが、「CLASSICシリーズをそれぞれ文学作品に例えると?」という無茶な質問にも答えてもらっていました(笑)。これがなかなかおもしろい回答が揃っていたので、また別の機会に“番外編”ということでご紹介しますね。
 
 
最後に。
 
「ブレンドができた!と思ってもお客様の声を聞くまで不安だし、おいしいって声を聞いて安心したのも束の間、また次のブレンドづくりに取り掛かる。なかなかしんどいですよ。」インタビューの合間に、秦がふとこぼした言葉が印象的でした。
 
堀口珈琲のなかでも花形とされる“ブレンダー”という仕事を担うが故のプレッシャーや不安感を、日々感じながら仕事を進めているのが伝わってきました。それでも尚つくりつづけるのは、ブレンドのおいしさを楽しんでもらいたいという想いからでしょう。だからこそ、お客様からの店頭での反応や、SNSで見かける味わいに対しての感想が原動力になると思います。
 
11月中旬には次のSEASONALSブレンド「ハッピーホリデー」が発売されます。今頃、秦は数種類のサンプルをつくりあげ、最終調整を行なっているころでしょう。ぜひみなさま、楽しみにしてお待ちください。味わいの感想などお待ちしております。
 
誰かの暮らしが堀口珈琲のコーヒーで少しでも豊かになることを祈って、秦は今日もブレンドづくりに励んでいます。
 
 
ブランディング部・広報 中川

 
 

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