たのしいコーヒー

コーヒー豆からカフェインを除去する超臨界技術とは? デカフェ工場見学レポート

コーヒー豆からカフェインを除去する超臨界技術とは? デカフェ工場見学レポート

こんにちは。EC事業部の小野寺です。

「どうやってコーヒーからカフェインを除去しているのですか?」

以前、デカフェについてこのようなご質問をいただきました。

堀口珈琲では現在、二酸化炭素を溶媒としてカフェインを除去する「超臨界二酸化炭素抽出法」を採用しています(※)。

と、言われてもイメージが湧きませんよね。

超臨界二酸化炭素。実はこれ、安全かつ環境負荷の少ないグリーン溶媒として非常に注目されています。コーヒーからカフェインを取り出すだけでなく、ごまからごま油を取り出す、ビールの原料となるホップからホップエキスを取り出すなど、様々な製品にも応用されています。

今回は、皆さまの知的好奇心をくすぐる「超臨界技術」についてのお話しです。
コーヒーを片手にお楽しみください(カフェインの有無は問いません)。

※ご好評につき超臨界二酸化炭素抽出法によるデカフェは販売終了しました。

 

国内初の超臨界技術によるデカフェ工場が誕生


カフェインの除去方法は大きく分けて、

1.水による抽出 2.二酸化炭素による抽出 3.有機溶媒(薬品)による抽出

による3つの抽出法があります。

(詳細は「おいしく安心なデカフェでコーヒーライフはもっと充実する」で解説しています。)

堀口珈琲ではこれまで「1.水による抽出(スイスウォーター式)」を採用したデカフェを中心に販売してきました。非常に優れた製法で、処理コストも比較的安いというメリットがありますが、処理工場がカナダにあるため、生豆の輸送中の品質低下を防ぐためのケアが必要となります。

具体的には、産地からカナダへの輸送に冷蔵コンテナを使用したり、カナダから日本への輸送は冬から春先にかけて到着するようスケジュール調整し、さらにはそのタイミングに合う収穫期の産地を選定したりと、コーヒー生豆の状態を維持管理するための細かな配慮をしてきました。

「2.二酸化炭素による抽出」も海外にしか工場がなかったため同様のケアが必要で、しかも施設数が非常に少ないために当社ではしばらく採用しておりませんでした。

そのような中で2020年1月に国内初となるデカフェ工場が三重県桑名市に誕生しました。

国内でのデカフェ処理が可能になると、国内にある生豆の状態を確認した上で、すぐに処理できることから、状態を考慮した輸送や神経質にスケジュール管理をしなくても状態の良いデカフェ生豆を作ることができます。デカフェの香味の多様化を模索していた私たちにとっては、小ロットで製造できることも魅力的です。

ということで、さっそく三重県桑名市へデカフェ工場を見学しに行ってきました!

 

廃棄物の中間処理施設とデカフェ処理工場の意外な関係性


三重県桑名市は名古屋駅から電車で30分ほど。ナガシマスパーランドや蛤(はまぐり)が有名ですね。

朝早くに東京を出て、桑名に到着するとさっそくデカフェ工場を見学……、ではなく最初に見学したのは廃棄物の中間処理施設でした。というのも、デカフェ処理工場を運営する株式会社ケー・イー・シーはもともと産業廃棄物処理を事業とする会社なのです。

デカフェ処理工場と、廃棄物の中間処理施設。
まったく関係のないように思えて、実は深く結びついていました。
そのキーワードが「超臨界技術」です。

超臨界技術を簡単に説明すると、ある物質から特定の成分を抽出・分離するための技術です(後の章でもう少し詳しく説明します)。

株式会社ケー・イー・シーがコーヒーからカフェインを除去するために用いている超臨界技術、もともとは廃棄物の処理過程において廃棄物から有害物質を抽出・分離し、無害化することに活用するために研究が始められました。その技術やノウハウを応用する形でデカフェ処理を事業化するに至ったそうです。

つまり、廃棄物を処理する過程で有害物質を除去し、無害化した廃棄物をリサイクルするために研究された技術が、デカフェ処理に応用されたわけですね。私も現地でお話を伺うまでその経緯を知らず、思わず「なるほどなぁ~」と唸ってしまいました。
 

すこし脱線してしまいますが、廃棄物の中間処理施設を見学させていただく中で、“ものづくり”は“廃棄物の処理”と両輪になっていることを強く実感しました。日本は“ものづくり大国”とも呼ばれ、新しい技術によって生み出される新しい製品は注目を集めますが、それと同時に廃棄物の処理についてももっと注目されるべきだと思いました。私も一消費者として、ものを使う責任、捨てる責任を感じました。ゴミを減らす工夫をし、捨てる際はしっかり分別しリサイクルする。当たり前のことですが、大事ですね。

 

超臨界技術ってなに?


中間処理施設での話が盛り上がり、デカフェ処理工場へと向かう頃にはすっかりお昼を過ぎていました。

こちらがデカフェ和泉工場です。
日本初の本格的なデカフェ処理工場として2020年1月に完成しました。
超臨界技術を用い、水と二酸化炭素によってコーヒーからカフェインを抽出します。

先ほど超臨界技術とは「ある物質から特定の成分を抽出・分離するための技術」と前述しましたが、もう少し詳しくみていきましょう。

理科の授業で習った“物質の三態”という言葉、覚えていますか? 固体・液体・気体の3つの状態です。これは圧力と温度によって変化します。例えば水であれば、1気圧のもとでは0℃以下になると固体(氷)になり、100℃を超えると気体(水蒸気)になります。

そして、さらに圧力と温度を高めていき臨界点を超えると、物質は液体でも気体でもない“超臨界状態”になります。

圧力と温度の操作で現れたり消えたりと実態が見えないのでなんだかオバケみたいな状態ですが、液体と気体の両方の性質を兼ね備えていて、どこにでも隅々まで早く行き渡ることができる気体の拡散性と、成分を溶かし出して運ぶことができる液体の溶解性を持ちます。本来なら同時に持ちえないこの2つの性質を利用して成分を抽出・分離するのが超臨界技術です。

 

デカフェ処理では、超臨界状態にした二酸化炭素を溶媒として用います。水分を含ませたコーヒー生豆を上記写真の頑丈な釜の中に投入。一定の熱と圧力をかけて超臨界状態にした二酸化炭素に接触させると、気体の拡散性と液体の溶解性を併せ持った二酸化炭素がコーヒー生豆に染み渡り、カフェインを溶かし出します

カフェインを溶かし出した二酸化炭素は設備内でカフェインが除去され、またコーヒーからカフェインを溶かし出してはクリーンな状態に戻され、機械の中でぐるぐると循環してカフェインを取り出していきます。

ものの数時間で、コーヒー生豆から90%以上のカフェインが除去されます。釜からコーヒー生豆を取り出し、乾燥させたらデカフェ処理の完了です。
コーヒー生豆に残った二酸化炭素は処理後、自然に揮発します。例え残留していても、それは炭酸飲料に含まれる炭酸ガスと同じですので無味無臭で、安全です。

ちなみに、処理で使用する二酸化炭素は別の施設で発生した二酸化炭素を再利用しており,食品添加物のグレードまで精製したものだそうです。

また、デカフェ処理で使用された二酸化炭素は設備内で精製されているので,99%以上が再利用されています。大気中に放出される二酸化炭素は温暖化の要因とされていますが、「超臨界二酸化炭素抽出法」は本来大気中に放出されるはずの二酸化炭素を再利用した、環境負荷の少ない技術というわけです。

 

 

おいしさの追求


二酸化炭素を超臨界状態にして、コーヒー生豆に接触させる。

これだけだとシンプルな工程に感じますが、デカフェ処理の開発段階における試験・試作は2000回(!)を超えたほど困難を極めたそうです。というのも、温度・圧力・水分・処理時間などをうまくコントロールしないとカフェイン以外の成分(=コーヒーのおいしさを形成する成分)も一緒に取り出してしまい、薄いほうじ茶のような味になってしまうのだそう。デカフェでもおいしいコーヒーに仕上げるべく、カフェインだけを選択的に取り出せる最適な方法を追求し、独自の製法が完成されました。

 

この超臨界技術で、今回デカフェにしたのは堀口珈琲の長年にわたるパートナー農園であるグァテマラ「サンタカタリーナ農園」のコーヒー生豆。最高品質の素材を優れた技術でデカフェ処理することで“おいしいデカフェ”が出来上がります。

優れた技術×最高品質の素材で生み出された堀口珈琲のデカフェ。

「え、これカフェイン入ってないの?」

出来上がったサンプルを一口飲んで、私の上司は驚きを漏らしていました。
工場見学をしてきた私は、なんだか誇らしい気持ちになりました。

その味わい、ぜひ確かめてみてください。
※ご好評につき「【DECAF】サンタカタリーナ農園」は販売終了しました。

>>堀口珈琲オンラインストアへ

 

【今回訪れた場所】
株式会社ケー・イー・シー デカフェ和泉工場
 〒511-0838 三重県桑名市大字和泉字ハノ割389-1