たのしいコーヒー

二人の時間を少しだけ特別にするブレンド/ 生豆事業部:大瀧 雅章

二人の時間を少しだけ特別にするブレンド/  生豆事業部:大瀧 雅章

   

 

   

 

普段はブレンドを作り、お客さまにおすすめしている堀口珈琲のスタッフが自身のブレンドにまつわるエピソードを綴る連載エッセイです。

ブレンドとの出会いや思い出、わたしだけの楽しみ方、好きなブレンドのことなど、ここでしか読めない内容となっています。

この連載をきっかけに、堀口珈琲のブレンドの魅力がより多くの人に伝わり、暮らしや人生が豊かになりますように。

 

 

二人の時間を少しだけ特別にするブレンド / 生豆事業部 大瀧 雅章


 

「今日のコーヒーはコレ。わかる?」

コーヒー豆のパッケージの封を開けて相手の方に差し出してみる。

「あ、ベリーの香りのやつ♪♪」と、ちょっと鼻を鳴らしたような、期待通りの妻のリアクション。

日曜の朝、我が家はこんな会話から始まります。

 

僕がコーヒーをいれるとなれば妻は大概喜んでくれるのですが、お気に入りの#6「WINEY & VELVETY」となるとその効果は存外に大きく、時には夕ご飯のおかずが一品増える、くらいのことが起きます。

私が堀口珈琲に出会ったのと、バイト先で妻に出会った時期はちょうど同じ頃。20年以上前のことです。受験勉強の息抜きにと始めたコーヒーの「ドリップ」に熱中し、月に2回ほど、夜勤のバイト上がりに堀口珈琲へ通う日々が1~2年くらい続きました。帰宅するなりコーヒーをいれて、味わいの感想を訊いてはまたいれ直す、の繰り返し。当時から妻には、そんな僕がいれたコーヒーをよく飲んでもらっていました。

 

最初はアメリカンしか飲めなかった妻が一体いつから#6の濃厚な風味を好むようになったのか……。はっきりとは思い出せません。

 

 

#6がブレンドのラインナップに加わったのは2013年。私が堀口珈琲に入社してちょうど10年目の年、ブランドデザインが一新されたタイミングでした。2010年代に入り「高品質なエチオピア産ナチュラル」を安定的に入手できるようになったことがこのブレンドの誕生を後押ししました。妻が好きな「ベリーの香り」あるいは「赤ワインを想わせる果実感」は、主にこの「高品質なエチオピア産ナチュラル」に由来します。初めて味わった時の衝撃は今でも鮮烈に記憶しています。

 

このブレンドの風味の本質的な要素である「Winey」、すなわち赤ワイン。当時二人で、記念日や時にはそうでない日にも、フレンチレストランを巡ってはおいしい料理とともに様々な産地の赤ワインの風味をシェアしてきました。その風味とともに残る「愉しさ」「心地よさ」「充足感」の記憶が#6の風味によって静かに呼び起こされるのでしょうか。そんな作用が、このブレンドに「お気に入り」のポジションを与えているのかな?などと、ひとり想像しています。

 

 

 

「さすが、鼻が利くね」と、もう一段階ご機嫌を取りつつ、早速ミルで豆を挽き始め「カップをどうしようか」と悩み始めます。

その日はちょっと日当たりの悪い冬の日曜の朝、なかなか部屋が暖かくなりません。

 

「今日は、鉄化粧の湯呑みにすれば、手が温まって良いかな?」と考えながら粉を入れたドリッパーをセットし、「いや、そういえば最近手が荒れやすくなっているから、大きめの把手のついたマグは滑りが気にならなくて良いかな?」と、粉へと注がれる湯の太さに細心の注意を払いつつ考えを巡らせます。

「でも、このブレンドの『Velvety』をよりよく楽しむには、口あたりの良い、亀田大介さんの白磁のソーサー付きがやっぱ1番!」と、いれ終わる頃になってようやくいつものカップに落ち着きます。

 

 

コーヒーをゆっくりと注ぎ入れ、テーブルの前でラジオに耳を傾けながら朝ごはんの林檎を頬張っている妻の背後から「はいよ」と差し出し、森岡由利子さんの白磁の湯呑みに注いだ自分の分をソファの上ですすって、そこで一息。豊かなフレーバーと滑らかな舌触りに、しばしの間身と心を委ねます。

 

 


 
 


深煎りの苦味・舌触りと
充実した果実に見る赤ワインとの共通項

「深煎りと果実」
ワイニー。難しい言葉です。
ワインにはとめどなく奥深い世界が広がっています。
素晴らしい産地・品種・作り手・ヴィンテージ。一緒くたにするなどもってのほかです。
一方で、深煎りコーヒーの複雑な味わいに果実感が加わると赤ワインのような雰囲気が表れます。
複雑さと果実味、そして口あたり。
嗜好品の共通項が垣間見えます。

 

ONLINE STORE

 
 

 


 

 


大瀧 雅章
生豆事業部

2004年入社
 
入社後の関心事の移り変わり。

“ワインとフレンチレストラン” → “カメラ” → “うつわ” → “ランとグルテンフリー”。現在地は “コーヒー”。