産地のはなし

コーヒー産地ケニアってこんなところ!

コーヒー産地ケニアってこんなところ!

 

ケニアと聞いて皆様はどのようなイメージを思い浮かべますでしょうか。

広大なサバンナ、野生動物、マサイ族、箱根駅伝の留学生……。
どのようなところなのか具体的にイメージしてみると「実はよく知らないかも」という方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回は私たちが過去に産地訪問した際の写真を交えながら、コーヒー産地ケニアを紹介したいと思います。

どのような環境においてコーヒーが生産され、生産者の方々はどのような状況に置かれているのか。その背景を知ることで、皆様のコーヒー体験がより味わい深いものになれば幸いです。

 

1. ケニアの基本情報


 

 

北にエチオピア、南にタンザニアと接するケニア。国のほぼ中心を赤道が貫きます。 国土面積は586,600平方キロメートルで、日本の約1.5倍。 人口は5,377万人 と日本のおよそ半数です。

主要な産業は農業でGDPの約3割、雇用の約6割を占めます。 主な農産物はお茶、コーヒー、トウモロコシ、切り花など。なんとお茶は輸出量世界第1位、生産量世界第4位を誇ります。下の写真は現地のコーヒー農地を訪れた際にすぐ隣にあった茶畑です。ケニアでは男性がコーヒーの仕事に携わり、女性はお茶の生産に携わることが一般的のようです。

 

 

2021年のコーヒーの生産量は約35,000tで世界25位 。参考までに同じ東アフリカのエチオピアが約450,000tで世界第5位、タンザニアが約73,000tで世界17位(※)。隣国と比較すると生産量は少なく、また減少傾向にもありますが、独特の香味から世界中のコーヒーファンに愛されている産地です。それ故にコーヒー生豆の価格は高額で取り引きされる傾向にあります。

上述の通り、農業が経済を支えている国ですが、重点経済政策として製造業に力を入れており、工業化が進んでいます。堅調な経済成長を続けており、 2015年には途上国を脱し、中所得国入りを果たしています。 後述しますが、こういった背景はケニアのコーヒー農家が置かれる状況にも影響を及ぼしています。

 

※国際連合食糧農業機関 – Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO) 2021年資料

 

 

こちらは首都のナイロビの様子です。東アフリカでは最も経済的に発展している都市と言われています。ケニアといえば広大なサバンナを想像されるかもしれませんが、都心部では車や近代的な建物も多く、想像以上に都会的な生活が営まれています。

 

 

ナイロビの周辺では宅地化が進んでおり、都市部がどんどん大きくなっています。かつて当店が扱っていたコーヒーの加工場の中にも都市化の波に飲み込まれて消滅してしまったところがあります。

 

 

大きな都市には大きな幹線道路もあります。産地へのアクセスやコーヒーの流通の点でも、インフラの整備は非常に大切です。

 

 

都心部を抜けるとだんだんと田舎になっていき……

 

 

少し離れるとあっという間に大自然が広がります。

 

 

写真の右奥に見える山がケニアのシンボル「ケニア山」。ケニア最高峰(5,199 m)で、アフリカ大陸でもタンザニアのキリマンジャロにつぎ第2位の標高を誇ります。赤道直下にもかかわらず氷河を戴いています。

 

このケニア山の南側の地域(エンブ、キリニャガ、ニエリ、キアンブの4県)は高品質なコーヒーを手掛ける農園や一次加工場(ケニアでは「ファクトリー」と呼びます)が多く存在しており、当店で扱う商品もほとんどこの地域のものです。ケニア山南麓の冷涼な気候、豊富な水源、肥沃で水はけのよい火山性土壌など、コーヒー栽培に恵まれた環境が広がっています。

 

 

ケニアのコーヒー生産・流通工程における特徴


 

ここからは、ケニアのコーヒー生産・流通工程における特徴をいくつかご紹介していきます。

 

<ファクトリー>
まず、ケニアの特徴としてあげられるのが「ファクトリー」と呼ばれる精製施設(一次加工場)の存在です。

 

上述したコーヒー生産エリアにはファクトリーがいくつも存在し、その周辺に住む各農家が収穫したコーヒーの果実(コーヒーチェリー)をファクトリーに持ち込み、換金します。「ファクトリー」は隣国のエチオピアでいうと「ステーション」とほぼ同じ機能を果たしています。

 

 

ケニアのコーヒー農家の約2/3は小規模農家 です。例えば当店が販売しているシングルオリジン「カイナムイファクトリー」のコーヒーチェリーを処理している同名のファクトリーには周辺に住む2,800もの農家が所属しています。中米などの産地では「〇〇農園」といった生産者単位でコーヒーが流通されることも多いですが、ケニアのコーヒーは主にファクトリー単位で流通されているのはこういった背景があります。

 

 

優良なファクトリーは品質管理には非常に気を使っており、農家指導プログラムを基に各農家に対する指導を行っています。指導は除草・剪定・施肥・マルチング(畑の表土を覆うこと)といった技術面の他に、農地管理がガイドラインに沿ってなされているか運営面についても行われます。非常に細かなところまで指導が徹底されており、それは品質にも表れます。

 

各農家からファクトリーに集められたコーヒーチェリーは選別された後、一次処理(果肉除去~水洗処理~乾燥)が施されます。乾燥を終えると、二次加工施設(ドライミル)で脱殻と選別を経た後「マーケティングエージェント」に販売が委託されます。

マーケティングエージェント?
あまり聞き馴染みのない単語ですが、実はケニアのコーヒー流通において重要な役割を果たす存在なんです。

 

<マーケティングエージェント>
ケニアでは主に2つの流通経路があります。
1つめはオークション経由の流通です。ケニアでは毎週NCE(Nairobi Coffee Exchange)という取引所にてオークションが開催され、そこにコーヒーの販売を農協などから委託された マーケティングエージェントが出品し、有資格の輸出業者のみが参加し落札することができます。
もう1つは直接取引による流通です。マーケティングエージェントはオークションを通さずに輸出業者へ直接販売することもできます。

2005年までは前者のオークション経由のみの流通でしたので、時季になると当社の生豆買付担当は毎週何十にも及ぶサンプルをカッピングし、品質の高いものを選んで輸出業者経由で落札して買い付けを行っていました。2006年からは後者の直接取引ができるようになり、輸出業者とマーケティングエージェントを通じて優良なファクトリーのコーヒーを継続的に買い付けできるようになりました。

 

 

このようにマーケティングエージェントは、コーヒーの流通における要として役割を果たしている訳ですが、それだけに留まりません。彼らは販売を託された生豆を販売し対価を得ること以外にも以下のようなサービスを行っています。

 

苗や肥料、その他コーヒーの栽培に必要な物資の供与

 

農家がコーヒーを新たに植えたり、植え替えをしたりするには苗が必要です。またコーヒーの木が健康に育ち、十分に栄養の行き渡ったコーヒーチェリーが育つには、土壌中に十分な栄養素が含まれていることが必要で、それには適切な施肥が必須になります。しかし各農家は貧しく、肥料を調達するための資金を自力で賄うことは容易でありません。そのため、マーケティングエージェントは農協を通じてコーヒー農家に苗や肥料を提供しています。

 

農事指導

 

 

提供した肥料は「必要なタイミングで投与」される必要があるため、マーケティングエージェントは科学的知見に基づいて施肥のタイミングを見極め、スマホのショートメールなどで施肥のタイミングを農家に伝えます。また、それ以外にも収穫のタイミング、剪定やカットバックなど圃場のメンテナンスに関する作業等の方法やタイミングの指導・指示なども同様に行なっています。

その他、農家が安心してコーヒーの生産に従事し続けることができるよう、農家への資金融資も行ないったり、学校や医療などの社会環境の整備にも努めています。

つまり、マーケティングエージェントはコーヒーの流通だけでなく、農家の生産活動の継続性を支え、成果物であるコーヒーチェリーの品質に大きく影響を与えている存在なのです。

 

 

ケニアのコーヒー農家が置かれている環境


 

ファクトリースタッフやマーケティングエージェントのサポートの下、農家は安定的にコーヒーを生産し、今後ますます生産量を拡大していくだろう……と期待したいところですが、ケニアのコーヒー農家が置かれている環境は決して楽観視できるものではありません。

前述の通り、ケニアのコーヒー農家の多くは小規模農家です。現在、彼らがコーヒーを栽培し続けることがますます困難な状況になっています。実際に、ナイロビ近郊のエリアではコーヒー農家数・栽培面積が減少しています。

まず、「零細化」の問題があります。
ケニアの一般家庭では大体5~6人の子供がおり、親の財産は分割相続されます。コーヒーの栽培のための農地の取得を奨励するような法整備もされていないため、コーヒー農家1世帯当たりの農地は縮小していき、生計を立てていくには生産量が確保しづらい状況が起きています。

 

 

その中で、経済発展に伴って都市部では地価が上昇しているため、子どもたちのなかにはコーヒー生産を引き継がず、相続した土地を売却して現金化し、IT関連などのオフィスワーカー等になるケースが増えているようです。

また、「収入面」の問題もあります。
親から継いだ農地で農業を継続するとしても、需要が高まっているマカダミアナッツや、比較的栽培しやすく安定した収入を得やすい玉ねぎやアボカドなどを選択するケースも増えているといいます。コーヒーの栽培は、天候などの自然条件だけでなく、国際相場の激しい上下動などによって収入が大きく左右されるため、彼らにとっては「リスクが高い生業」です。

 

 

社会環境が未整備であることもコーヒーの生産に対して直接・間接的な影響を与えています。ケニアでは医療保険が整備されておらず、いざという時には多額の医療費がかかります。治療費が必要になった農家は、現金収入を得るためにまだ未成熟なチェリーを収穫し農協に持ち込まざるを得ず、コーヒーの品質低下とその結果としての収入の低下も招いているようです。

ますます零細化していくコーヒー農家がコーヒー生産を続けるには「非常に勇気がいる」状況なんだと、現地の輸出業者の方は語ります。

 

堀口珈琲とケニア‐これまでとこれから‐


 

 

この状況を打破・改善し、農家が安心してコーヒー生産を続けるようになるには、それをサポートする仕組みとプレイヤーが欠かせません。それは、前述した「ファクトリー」や「マーケティングエージェント」といった存在です。そして彼等が生産したコーヒー生豆を買い付け、商品として販売する消費国の「ロースター」もまた、その一端を担います。

良質なケニア産コーヒーの香味は、堀口珈琲がスペシャリテとするブレンドにおいても欠かせない存在です。最高品質のケニアを追求し、買い付けを行ってきた歴史は20年以上に及びます。

私たちが大事にしているのは品質を軸にした生産者との「継続的な関係性」です。

数多のサンプルをカッピングし、実際に現地を訪問することでカイナムイ、カムワンギ、カラツといった優良なファクトリーのコーヒーに出会い、高品質なコーヒーとしていち早く評価し、継続的な関係性を構築してきました。私たちが品質を軸にした買い付けを継続することは、各ファクトリーによる農家への物質的・金銭的・技術的なサポートの継続に繋がります。それは、結果としてコーヒーの品質を支えることにも繋がります。

ここ数年、気候条件などの影響によりケニア全体の作柄が思わしく、良質なコーヒーを適正な価格で買い付ける事が困難な状況が続いていました。そのような中でも、品質を軸にした生産者との「パートナーシップ」が、良質なケニアのコーヒーをお届けすることを可能にしていました。

 

 

そして、気候的な条件が良好で数年ぶりにケニア全体の作柄が良い今期。高品質なコーヒーを継続的に作り続けてきた生産者たちから届いたのは「すごい!」と感嘆してしまう程の素晴らしい品質のコーヒーたちでした。

現在、堀口珈琲のオンラインストアではケニア特集「AMAZING KENYA! 今期のケニアがすごい」を公開中です。 素晴らしすぎる作柄で届いた今期のケニアを「とにかく味わってみてほしい!」。そんな想いから、今回は4種類の焙煎度でお届けし、お得な飲み比べセットもご用意しています。

ぜひこの機会にケニアへ思いを馳せながら、コーヒーをお楽しみいただけますと幸いです。

 

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