たのしいコーヒー

PAPA’S BLEND 2024 ~制作の裏側~

PAPA’S BLEND 2024 ~制作の裏側~

目次

1 2年連続 創業者堀口俊英による期間限定の特別ブレンド
2 PAPA’S BLEND 2024 制作の裏側
 -2-1 2024年、始動
 -2-2 素材選び
 -2-3 焙煎とテイスティング①
 -2-4 テイスティング②とブレンド完成

 

1 2年連続 創業者堀口俊英による期間限定の特別ブレンド


 

こんにちは。
商品企画担当の島崎です。

皆様はご存知でしょうか。
堀口珈琲には不定期に登場する特別なブレンドが存在します。
#1~#9のCLASSICとも、季節限定のSEASONALSとも異なるシリーズ、

『FANTASIA』

そのひとつに位置付けられるのが、創業者・堀口俊英(現会長)が独自のアプローチで取り組む自由なブレンド【PAPA’S BLEND(パパズ ブレンド)】です。
会社では第一線を退いている堀口ですが、まだまだ現役のコーヒー人。
何十年にも渡って蓄積されたコーヒーの知識と経験、そして即興的なインスピレーションを総動員してこのブレンドを創り上げます。
「素材」「イメージ」「モチベーション」の三拍子が揃って初めて商品化できるブレンドと言えるでしょう。そのため、連続で登場した年もあれば、数年間販売できない時もありました。だからこそ、販売した暁にはたくさんの反響をいただく貴重な存在になっています。

2024年、今年もPAPA’S BLENDをお届けします。
2年連続の販売となったのはいつ以来でしょうか。
昨年の記憶が残っている方も、初めてという方も、今回限りの特別な味わいをぜひお楽しみください。

今回はその制作の裏側に密着しました。
島崎視点でレポートします。どうぞ、ご覧ください。

 

 

2 PAPA’S BLEND2024 制作の裏側


 

2023年のPAPA’S BLENDは3年ぶりの販売ということもあり、非常に多くの方にお楽しみいただき大盛況の結果に終わりました。
販売期間中に行われた堀口と社長若林のトークセッションイベントも大いに盛り上がりました。

販売終了後、堀口のもとを訪れた私からPAPA’S BLENDの反響の報告を聞きながら堀口はこう言いました。

「楽しかった。また来年もやりたいね。」

数年ぶりのブレンド制作で堀口自身もとても刺激的なイベントだったと振り返ります。

 

 

「今回は王道の深煎りを目指したけど、来年は少し変化をつけてみてもいいかもね。」
「次回は全部ティピカで作ってみようか。」と少し笑いながら言いました。

生豆調達部門が頭を抱えるような提案に、
「マスター、良いティピカをたくさん揃えるのはとても難しいんです。特に最近は…。苦笑」
と返す私。

皆様もよくご存じのように、コーヒーには作柄があり、出来の良さや悪さ以外にも、風味のニュアンスや収穫量も毎年異なります。
2023年ならではの素材に、その時に思い浮かんだインスピレーションが重なった結果生まれたPAPA’S BLEND 2023。

また来年は、その時ある素材で違った方向性のブレンドを創ろうと約束し、2023年のPAPA’S BLEND制作は幕を閉じました。

 

※マスター・・・社員、スタッフからの呼び方

 

 

2-1 2024年、始動


 

時は流れて2024年3月。
今年のPAPA’S BLENDの方向性やスケジュールを決めていく時期が迫ってきました。
堀口の気分が変わっていないことを祈ります。

別件で事務所を訪れた私は、堀口に今年のPAPA’S BLENDの話を切り出しました。

「もちろん、やろうか。」

二つ返事で制作を快諾してくれました。

「前回のようにブレンドに使える素材のリストをちょうだい。イメージを膨らませておくから、4月にまた具体的な話をしよう。」

前向きな姿勢の堀口に安心しつつ、今年も成功させるぞと気合いを入れ直し、私は素材リストの作成に取り掛かりました。

堀口珈琲のオンラインストアでは常時20種類以上のシングルオリジンをラインナップしており、これが時期によって頻繁に入れ替わります。
それは「今が旬だから!」「このコーヒーの、この時期の、この味わいを楽しんでもらいたい!」など、様々な理由がありますが、年間通して合計すると100種類以上のコーヒーをご提案することになります。
この“100”という数字も実は厳選した結果の数字なのですが、その裏側はまた別の機会に。

ということで、「ブレンドを創る」という行為はたくさんの素材(シングルオリジン)と向き合うことから始まります。さて、この膨大な数のラインナップを目の前にして堀口はどう進んでいくのでしょうか。

膨大といってもすべてを候補に入れることはできませんので、入港時期や在庫量、風味の傾向などから、ある程度絞った約60種類のリストを用意して堀口のもとに送ります。(それでもすごい数です)

 

2-2 素材選び


 

4月某日。
予め送っていた素材リストから、今回のブレンドに使用する候補となる素材を決定するため、堀口の事務所を訪れました。

「今年はタンザニアのピーベリー(※)を使いたい。」

しっかりイメージが膨らんでいたようです。
この日はオンラインストア担当の小野寺を含め、改めて3人でリストを眺めながら素材選定を進めていきます。

 

※ピーベリー・・・通常、コーヒーチェリーの中には種子としてフラットビーン(平豆)が2つ入っている場合が多いですが、稀に生長段階で種子が1つしか育たず、その種子が俵状に育つ場合があります。これをピーベリー(丸豆)と呼びます。

 

「タンザニアのピーベリー。とても質感がいい。なめらかで、触感も柔らかい。酸がきれいだね。あれをベースに考えたいと思っていて、その相手になる素材を選んでいこう。」

以前サンプルで試飲していたタンザニア「ハイツ農園」のピーベリーに注目していたようです。

「あとはケニア。いくつかファクトリーがあるけどどう違う?」
「同じ農園でも焙煎度を変えてブレンドしてみてもおもしろいね。」
「今の時点で使う可能性は低いけどマンデリンとブラジルも候補に入れようか。」
「ハイツ農園はピーベリーじゃないほうもチェックしてみたい。」

 

 

特別ブレンドに対する熱意は変わっていません。

「昨年は比較的バランスのよいコーヒーをブレンドしていましたが、今回はなかなか個性的なコーヒーに注目していますね。」

という私の問いに対して、
「そう、今回はいかに個性的な素材をバランスよく融合させるかに挑戦してみたい。」
と答える堀口。

「そうだね、風味のテーマは『なめらかで甘いアフター、しっかりした酸味のコーヒー』かな。」

いったいどんなブレンドになるか、期待が膨らみます。

こうして約60種類のシングルオリジンから5種類の素材が候補に選ばれました。

 

■素材候補になった5種類

・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリー)」
・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリーでない)」
・ケニア「カイナムイファクトリー」
・ブラジル「セルカ・デ・ペドラ・サン・ベネディート パルプトナチュラル」
・インドネシア 「マンデリン “オナンガンジャン”」

 

 

2-3 焙煎とテイスティング ①


 

次のステップは1回目のテイスティングです。
候補になった素材を堀口自ら焙煎し、それぞれの風味の傾向を確かめていきます。
条件を揃えるために、すべてミディアムローストで焙煎します。

 

 

 

焙煎が完了したタイミングで再び事務所を訪れます。

すでに焙煎された豆がずらり。
さっそく粉に挽いて、お湯を注ぎます。

 

 

「ヒュッ、ヒュッ」とコーヒーをすする音が響きます。

「マスター、前回はこの1回目のカッピングでは主軸のコーヒーは決めていませんでしたよね。今回はハイツのピーベリーをベースと決めていますが、それによってカッピングでみる観点は変わってきますか?」

 

 

慎重にカップを進めながら、
「前回、この段階ではまずそれぞれのコーヒーの特徴を把握してイメージを広げることを優先したんだよ。今回はピーベリーを使いたいと思っているから、このコーヒーとの相性や全体のバランスをどう整えていくか、配合を具体的にイメージしながらカップしてる。」

ブレンド創りには様々なアプローチがあります。
前回のように全体をまず俯瞰することから始める方法や、今回のようにひとつ「これだ」とベースを決めて全体を整えていく方法、豆と豆の相性から見ていく方法、など。
パズルのピースをはめていく作業が、外から埋めていく方法、特定の絵柄から進めていく方法、色々あるように。

昨年と違うアプローチにわくわくしながらカップを進めます。

「やっぱりハイツのピーベリーはいいね。質感が際立ってる。酸がとてもきれい。」
「ピーベリーじゃない方のハイツもボディはピカイチ。クエン酸が主体の柑橘系のニュアンスが強い。」
「ケニアは華やかだけどボディがやや物足りないかな。ハイツと同様にクエン酸・リンゴ酸・グリコール酸を感じるし、これにはグルタミン酸(旨味)も強く感じる。」

「マスター、そのように言語化するとおいしくなさそうに聞こえます。」

笑う堀口。

「ブラジルとマンデリンはおいしいけど、やっぱり風味が特徴的だからブレンドに入れると味わいのバランスが崩れてしまうかもしれない。慎重にいかないとね。」

 

一通りカップを終えて、
「ハイツのピーベリー。この質感の心地よさときれいな酸、バランスのよさは素晴らしい。できればシティでその良さを活かしたいな。そこに、ピーベリーじゃないタンザニアかケニアでボディと酸のバリエーションを加えよう。ブラジルとマンデリン次第ではより複雑になるかも。」

徐々に具体的なブレンドイメージが整ってきたようです。
次は実際にシティローストとフレンチローストに焙煎して、いくつかの配合パターンを作って検討していきます。

 

■指定された焙煎度

・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリー)」:シティロースト
・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリーでない)」:シティロースト・フレンチロースト
・ケニア「カイナムイファクトリー」:シティ・フレンチロースト
・ブラジル「セルカ・デ・ペドラ・サン・ベネディート パルプトナチュラル」:フレンチロースト
・インドネシア 「マンデリン “オナンガンジャン”」:フレンチロースト

 

 

2-4 テイスティング ②とブレンド完成


 

後日、指定された焙煎度で仕上がった7種類のコーヒーを届けます。
残念ながら個別の風味チェックには立ち会えませんでしたが、後日いくつかの配合パターンに絞ったブレンドのテイスティングに参加することができました。

4月某日。
堀口の事務所を訪れると、すでに数パターンの配合のテイスティングを行っているところでした。

 

 

7種類のなかから最終的に候補に上がったのは下記の5種類です。

 

■最終候補5種類の素材

・タンザニア「ハイツ農園(ピーベリー)」シティロースト
・ケニア「カイナムイファクトリー」シティロースト
・ケニア「カイナムイファクトリー」フレンチロースト
・ブラジル「セルカ・デ・ペドラ・サン・ベネディート パルプトナチュラル」フレンチロースト
・インドネシア 「マンデリン “オナンガンジャン”」フレンチロースト

「ピーベリーじゃないハイツは今回入れなかったよ。ボディもあって複雑だけど、ブレンドで使うと少し重い印象になっちゃうかもしれない。それ以外の4種類、ケニアは焙煎度違いで試してみたいから合計5種類。この素材で色々な配合パターンを作ろう。」

そう言って渡された配合リストには12もの組み合わせ候補が書かれていました。

(去年もたしか最終的に5種類の素材で、配合は4パターンから絞り込んだ記憶が…)

今回はその3倍の組み合わせを検証です。
逆に言えば、それだけバランスを整えるのに微妙な調整が必要ということです。
特に今回は個性的なコーヒーを組み合わせているからか…。改めてその繊細さを実感します。

 

 

候補に挙げた配合を順番に作り、試飲していきます。

「ブラジルとマンデリンの加減が難しいね。ブレンドにユニークな複雑さを加えてくれるけど、個性的な分バランスをとるのが難しい。まだ少し目立っちゃうな。」

「それなら配合の比率を少なくしていけばいいのではないでしょうか?」

「そう単純な話じゃないんだよ。そこがブレンドのおもしろいところで、例えばこの配合。ブラジルとマンデリンの比率はこっちの配合よりも少ない。けど、実際飲んでみるとブラジルとマンデリンの風味がより浮いちゃうでしょ。バランスなんだよ。」

たしかに堀口が言うように、比率を少なくすれば風味が弱くなる、というわけではありませんでした。
ブレンドという世界の奥深さを改めて実感していると、さらに一言。

「僕はブレンドを飲んだとき、素材にどこのコーヒーが入ってるってバレたくないの。」

長年新しい風味を求めてブレンドを創り続けてきた堀口らしい言葉です。

 

 

12パターンすべての試飲が完了し、官能評価が終わりました。
堀口も私も、これが一番バランスよくまとまっていると確信した配合がありました。

なんとそれはすべてを均等に5種類配合するという組み合わせでした。
ブラジルやマンデリンの比率を少なくしたわけでもなく、ベースとしていたハイツのピーベリーを5割使うわけでもない、実にシンプルな配合でした。

誰でも最初に思いつくような配合。しかし、このバランスに行き着くまでのプロセスや検証が「いや、この配合以外はありえない」という説得力を持たせてくれます。この素材、この焙煎度だからこそ、この配合の比率になったのです。

「なめらかで余韻も長い。まさに甘いアフター。酸も豊かでとても複雑なブレンドになったね。これまでの堀口珈琲にはない風味ができた。」

「マスター、できましたね。」

約2ヶ月に及ぶブレンド創りが終了しました。
少しずつ形になっていき、ついに一杯のブレンドになりました。

ぜひ多くの方に飲んでいただきたい。心からそう思っています。

マスター、今回もありがとうございました。

(次回はどんなブレンドにしましょう…?)

 

 

 

 

 

堀口からのブレンド解説や楽しみ方のポイントはオンラインストアの商品ページに詳しく記載しています。
こちらも併せてぜひご覧ください。