概要
日本に輸入されるコーヒーの中で、ブラジル産は非常に大きな割合を占めています。そのため、日本人にとってブラジルコーヒーは最もなじみのある味の一つといえるでしょう。
一般的にはブラジルコーヒーの風味は、「全体的にバランスが良く、ナッツやチョコレートのような風味が感じられる。中煎りでは柔らかい味わい、深煎りでは力強い苦味が楽しめる」と説明されることが多いようです。しかし、ブラジルコーヒーをテイスティングすると、多くの場合、酸味が弱く感じられます。また、ナッツやチョコレートのような風味、丸い甘味とボディを感じる一方でどこかやや濁った質感のような特徴も感じます。
ブラジルは世界最大のコーヒー生産国であり、生産地域も広く、品種や精製方法もナチュラル、セミウォッシュトなど多様です。ブラジルコーヒーを無視することはできません。そこで、5月のテイスティングセミナーではブラジルをテーマに取り上げることにしました。
ブラジルにはミナスジェライス州(セラードなど)、バイヤ州、エスピリトサント州、サンパウロ州など多くの産地があります。しかし、産地間の風味差はあるのか?また、ブルボン品種、ムンドノーボ品種、カツアイ品種などさまざまな品種が栽培されていますが、品種による風味差はあるのか?は今一つはっきりしません。
ブラジルの生産者から見れば、明確なテロワールや品種の風味差が存在すると言うかもしれません。また、多くの生豆商社があり、輸入商品に対し様々な風味が語られています。しかし個人的には、その差を明確に捉えることは難しいと感じていますので、本当に商品説明通りの風味なのかを検証してみたいと考えました。
ブラジルコーヒーの特徴
1 テロワール
ブラジルのコーヒー産地の多くは標高800〜1200m程度で、標高差が比較的少なく、気温や降雨などの気候条件にも大きな差がありません。カルモ・デ・ミナスやマタス・デ・ミナス、バイアなどでは風味の異なるコーヒーが見られることもありますが、全体として見ると、標高の高いコロンビアのような明確なテロワールの違いは感じにくいように思います。
2 大量生産
セラードのように機械収穫が行われている地域もあり、中規模農園ではストリッピング収穫が一般的です。他の多くの産地のような完熟チェリーを手摘みする収穫方法は少なく、基本的には大量生産型の農業です。その結果、風味の平均化や均質化が起こる可能性があると考えられます。
3 ナチュラル精製
ブラジルの精製方法は大部分がナチュラルです。ナチュラル精製では果肉を付けたまま乾燥させるため、風味が比較的均一になりやすく、ウォッシュトの産地のような繊細な風味差が現れにくいと考えられます。
4 栽培品種
ブラジルではブルボン品種、ムンドノーボ品種、カツアイ品種などが栽培されています。しかし実際には、品種の個性よりもブラジルの風土やナチュラル精製が生み出す風味の影響の方が強いように感じます。そのためブラジルの品種開発は活発です。ブラジルの場合、これら四つの要素は風味の個性を強めるというより、むしろ風味の均一化をもたらしている可能性があるように思えます。。
酸味を感じにくい理由
ブラジルコーヒーは酸味が弱いと言われますが、滴定酸度(総酸量)が極端に少ないわけではありません。実際には、他の生産国と同じようにクエン酸やリンゴ酸などの有機酸は含まれています。私の印象では、ブラジルコーヒーの酸味は、ボディ感や濁った質感などによってマスキングされている可能性があります。
ナチュラル精製では乾燥過程で果肉由来の糖質の影響を受けます。焙煎過程ではこれらの糖がメイラード反応やカラメル化を起こし、甘味やボディ感を強めます。その結果、酸味が目立たなくなる可能性があります。
有機酸の種類の違い
一般に、標高の高い産地ではクエン酸やリンゴ酸による明るくきれいな酸味が感じられます。一方、ブラジルは標高が比較的低く、クエン酸の比率が少ないように感じます。コハク酸の比率が高い可能性があり、それが旨味や苦味、重さとして感じられるため結果として酸味の印象が弱くなるという仮説が考えられます。有機酸の組成に関する論文はほぼありませんので、根拠がありませんのでいずれ分析します。。
ブラジル特有の「濁り感」
ブラジルコーヒーは、標高が高く透明感のあるウォッシュトコーヒーと比べると、やや濁った質感を感じることがあります。ブラジルの豆はやや密度がやや低く、粉砕時に微粉が出やすい可能性があります。抽出液中の微粒子がコロイド構造を形成し、それが口当たりとしての濁り感や重さとして感じられるのではないかと推測しています。
まとめ
ラジルコーヒーの特徴は、単に酸が少ないコーヒーというよりも、甘味とボディによって酸が覆われ、均質化した風味構造を持つコーヒーとして理解する方が適切ではないかと考えています。一般にはブラジルコーヒーはブレンドのベースとして広く使用されます。しかし私自身は、コーヒーに透明感のあるクリーンな風味を求めているため、ブラジルコーヒーをブレンドの中心に使うことはほとんどありません。
とはいえ、ブラジルは世界最大のコーヒー生産国であり、その風味構造を理解することはコーヒー全体を理解するうえでも重要です。
horiguchi