パパ日記

ローストと酸とコクの関係

スターバックスは、ローストの種類を、BLONDE.MEDIUM.DARKの3種としました。コーヒーの香味はローストで変わりますので、これまでのミルクを入れることを前提としたような深いローストのみではなく多様にしたことはいいことだと思います。
私は20年前から多種のローストを実践してきました。
このスターバックスの新たなローストメニューを見ると、様々なことが読み取れます。
それはテースティング会などでお話ししましょう。

 

さて、コーヒーの香味は、各生産国の香味とローストの香味により複雑に絡み合います。
生産国の香味を横軸とし、ローストの度合いを縦軸とすると、それらの組み合わせにより多様な香味が表現できます。しかし、ここで問題となるのは各生産地のコーヒーが、どのローストにも適応できるとは限らず、制約を受けるものも多くあるということです。

アラビカ種は標高の高い産地に適応した品種です。
標高の高い産地では、昼と夜の気温の差があり、多くの場合実が締ったコーヒーが生まれます。つまり、しっかりした酸とコクがあるコーヒーとなる可能性が高いといえます。
例えば、中米であれば、グァテマラ、コスタリカ、パナマは、ホンジュラス、エルサルバドルなどに比べ標高が高い地区がまたテロワール(微気候)がよい地区が多く、酸とコクのあるコーヒーが多く見受けられます。一般的には生豆の価格も高くなります。

私はグァテマラのアンティグア地方、コスタリカのタラス地方、パナマのボケテ地方などは優れた酸とコクを生み出すコーヒー産地として認知していますが、そのことを理解するには膨大な他の産地のコーヒーを体験する必要があります。
大胆な言い方をすれば、コクは品種の違いの影響を受け、酸はテロワールの影響を受けるとも感じています。
あえて言えば、アンティグアとタラスの違いは標高ではなくブルボンとカツーラという品種の香味の差だとも考えます。ともにテロワールはいい訳ですが、アンティグアのブルボンの方が華やかな酸と濁りのないコクを生み出していると思います。もちろん堀口珈琲の使用しているコスタリカのラ・ピラやクレストネスなどは、カツーラですが、テロワールや精製工程もいいのでしょう。酸とコクがよく例外的と判断しています。

これらのコーヒーは、ミディアム、ハイ、シティ、フレンチと多様なローストでもよい香味となります。アンティグア地方の優れた農園のブルボン種のコーヒーは、ミディアムからフレンチまでローストできるものもあります。しかし、エルサルバドルのブルボン種は、ミディアム、ハイなどのローストに向くものが多くを占め、深いローストにすると香味の輪郭がぼやける傾向にあります。


コーヒーの香味を酸とコクという単純な香味で見ても、深いローストが可能ということはそれだけ香味の奥行きがある訳で、豆のポテンシャルの高さを意味するでしょう。

コーヒーの酸は、明るい、華やか、果実のようなどと表現しますが、酸の質も各生産地により異なります。
堀口珈琲では、これまで
ケニアのニエリ、キリニャガ、エンブ地域の柑橘と熟した果実の混ざった複雑な甘い酸を
グァテマラアンティグア地域の華やかな柑橘系の果実の酸を
スマトラのリントン地域のきりりとした明確な酸を
エチオピアのイルガチェフェ地域の甘い果実のような酸を
表現してきました。
これら堀口珈琲で扱うコーヒー(生豆)には、同時に明確なコクがあることにお気づきでしょうか?単純に言えば、コクがあれば深いローストをしても香味がぶれる可能性は低下しますので、これらのコーヒーをハイ、シティ、フレンチなど様々なローストで楽しんでいただいています。

コーヒーのコクとは、滑らかな舌触り、味の厚み、複雑さなどを意味し、シルキーとかベルベットのようとも表現できます。
このコクは、コーヒー初心者にはわかりにくい感覚で、コーヒー関係者でさえ理解するには、多くのコーヒーの飲用体験が必要となり、数年程度で判断しきれるものではありません。各生産国の多くの地域のコーヒーに触れ、そのカッピングの蓄積から判断できるようになります。

パナマのエスメラルダ農園のゲイシャ種は素晴らしい甘い果実の酸がありジュースの様ですが、コクは控えめです。これは品種特性ともいえるでしょう。
ハワイコナのティピカ種はきれいな酸がありますが、ほどほどのコクでしっかりしたコクではありません。
したがってこれらのコーヒーはハイロースト程度までのローストにとどめた方がよく、それ以上深いローストは本来の香味のバランスを崩すことになります。
現在 ハワイ島ではかなり深いローストの豆が販売されていますが感心しません。

素晴らしい酸のあるコーヒーで、さらにしっかりしたコクのあるコーヒーを求めればケニア産の中に優れたコーヒーを見つけることができます。
10-12のキリマラや11-12のリアンジャギなどは、見事といえるほどの明確な酸とコクを伴い、ゲイシャ種の華やかさにさらに複雑さを加えた香味といえるでしょう。ハイからフレンチまで多様なローストで楽しめます。

 

最近コーヒーマーケットの一部に、浅目のローストで酸を極端に強調する風潮が生まれ始めていますが、コーヒーの香味の本質は「酸とコクのバランス」にあることを思い起こしてほしいものです。

SCAAやCOEのカッピングの評価の基準ローストは、ミディアムからハイロースト前後(SCAAの場合正確には色差計の数値による)の浅目のローストですので、このローストでコーヒーを評価することが多くなります。コンテストの場合も、このロースト度合いで判断しますので、このローストがベストとの誤解が生まれたのかもしれません。

しかし、コーヒーの香味の本質は多様性にあり、コンテストでもシティローストを基準に評価すればハイローストの評価とは違ったものになるでしょう。
あるコーヒーがハイローストで素晴らしい酸を感じても、より深いシティにするとよくないということはいくらでもあります。だからといって浅いローストをよいとするのは単純です。シティでも素晴らしい酸を感じるものは、浅目のハイにしても素晴らしい香味となります。ハイローストのカッピングにおいて、コクがあれば、より深いローストをしても香味が崩れない可能性を推測できます。

あくまでスペシャルティコーヒーのカッピングはその生豆の内包している香味の可能性を判断するものとなります。そのためにわかりやすいローストがハイローストというだけです。

堀口珈琲では、カッピングにより、深いローストに耐えられるものはフレンチまでローストしますし、耐えられないものはハイでとどめます。

重要なことは、コーヒーの評価は酸のみではなくコクも重要であること、さらにはあるローストのみがいいのではなく、生豆の特性に合ったローストがいいということです。