パパ日記

マンデリンと精製・品種

インドネシアの15-16クロップは、約10.605.000袋の生産量ですが、その内の90%程度をカネフォーラ(ロブスタ)種で残りがアラビカ種です。ロブスタが多い理由は、さび病で多くのアラビカ種が壊滅的な打撃を受けたためです。

 

 

 

さび病は1868年にはセイロン(現スリランカ)のコーヒー栽培を壊滅させ、紅茶の栽培に切り替えさせました。またインドネシアにも大きな被害をもたらし,ジャワ島など多くの地域でアラビカからさび病に耐性のあるロブスタやリベリカに植え替えられています。
コーヒーの栽培の歴史は、病害虫との戦いの歴史であるともいえ、優れた香味を求めるというよりも生産量の維持が重要ととらえられてきたわけです。
 

 

現在では耐さび病の品種として様々なハイブリッドが誕生していますが、多くの場合香味に対する評価は低い傾向にあります。主なハイブリッド種

カチモール(ハイブリッドチモールとカトゥーラの交配種)
ブラジルではイカトゥ(ロブスタとブルボンの交配種にムンドノーボを交配)
ケニアではルイルイレブン(カチモールとSL28の交配種)
コロンビアではコロンビア(ハイブリッドチモールとカトゥーラの交配種)
したがって、スマトラでもロブスタ及びカチモールなどが多く、現地では様々な品種名で呼ばれることもあり、あいまいな部分も見られます。

 

 

 

一般的には、スマトラ島北部のトバ湖のあるリントン、またアチェ地域などのアラビカ種をマンデリンと呼んでいます。北スマトラ内陸の原住民のマンダイリン族 (mandailing)の名前もしくは地名などからといわれています。
現在、汎用品はリントンとアチェの区分はなく、又混ぜられていることも多く、輸出規格でよいものはG-1(300g中最大11欠点)となります。
このG-1を米国ではスペシャルティコーヒーに区分するようにも聞きますが、多くの場合カチモール系の苦みや重い香味が伴い当方はスペシャルティに入るものは少ないと判断します。

但し、米国向けに多く輸出されているマンデリンに「ブルーバタック」という商品がありますが、これはバタック族から由来していると推測されますが、これはスペシャルティに区分してもよいと思います。
マンデリンの独特の風味はエキゾチックで、欧米にも多くのファンがいます。
日本でもこれまで「ゴールデンマンデリン」「スーパーマンデリン」「トバコ」「リントン」、アチェの「ガヨマウンテン」など様々なブランド商品があります。

 

 

マンデリンの香味は、以下の二つの要因により影響を受けると考えられます。
1.独特のスマトラ式の精製、乾燥プロセスで生まれる部分

堀口珈琲のマンデリンが他のマンデリンと異なる点は、多々あります。
農家でパーティメントの一次乾燥、夜のうちにメダンに運び、メダンでの2次乾燥、そして脱穀後の生豆での3次乾燥などで品質が担保できます。
多くの場合は、生産農家からブローカー、脱穀業者などのプロセスの中で輸出業者にわたるまでの過程で品質のばらつきが出ますが、LCFマンデリンはメダンのミルで一括管理されます。
また、その後のハンドピックも厳密です。(ネットショップ参照)
このウオッシュトでもナチュラルでもないマンデリン方式の精製がクリーンでなめらかな触感を伴う独特の風味を生みだします。

 

 

 

2.品種及びテロワールにより生じる部分

堀口珈琲のマンデリンは、トバ湖近辺の在来系の品種で、40~50の小農家の豆で、樹齢の長い樹も多く混ざっています。この地はメダンから車で7時間はかかり、長らく日本の商社マンも産地に入ることは少なく、多くはメダンでの商談で済ましていました。
また、マンデリンは、昔からブローカーが自分の取引農家を教えないため農家まで特定できない産地でしたが、10年程前にブローカーの協力を得、ある程度生産農家を確認できている特殊な豆ともいえます。
品種は、オランダ統治下からのものと推測され、太平洋戦争時に日本軍がインドネシアを占領後以降も細々と栽培されていたものではないかと推測します。
古くからある樹で、カチモールではない為、在来種もしくは伝統種と表記しています。

 

 

 

当方のテースティング会では、独特の風味、複雑な香味があるため、総合的にマンデリンフレーバーという言い方さえします。
また、1年を通し他の産地の豆より香味が大きく変化していくのも特徴です。
入港直後は、クリーンでなめらかです。
ミディアムでは、柑橘系のレモンやオレンジの酸、さらにはトロピカルフルーツのような酸もあり、冷めるとジュースのような味わいを感じることさえあります。
檜の心地よい香り、青い芝草の香り、ピーマンなど野菜、数か月後には、雨上がりの森や草の香り、ハーブやなめし皮のようなニュアンスも生じてきます。

カッピングセミナーでは、「おじいちゃんの古い鞄の匂い」とか「押入れを開けた時の臭い」とか様々なコメントが出るのもこのコーヒーの複雑で楽しいところですが、好みも分かれます。

 

 

このマンデリンは深い焙煎に耐え、ミディアムとはまた異なる独特の香味特性が現れますので、堀口珈琲では開業時からフレンチローストにしています。
2000年以降にはスペシャルティコーヒーのケニア、南部県のコロンビアなどフレンチにできる豆は多くみられるようになりましたが、1990年代には深い焙煎に耐えかつ産地の香味を主張する豆は極めて少なかったため、マンデリンは貴重な豆でした。

 

 

このコーヒーの最大の特徴は滑らかな舌触りというボディ感にあり、フレンチローストのベルベットのような舌触りは他の豆に勝る特質です。
カチモールのマンデリンは、酸がなく、フレンチにすると苦みが突出し重い雑味を感じますが、在来種はうまく焙煎すると酸が苦味と相まってデリケートな心地よい苦みとなります。
クリーンで明るい。濃厚で、複雑。草や木、メルローの赤ワインを彷彿させます。
冷めるとブルゴーニュワインの熟成香であるなめし皮のニュアンスも現れます。