パパ日記

テロワールの崩壊?-1

テロワールは、ブルゴーニュワインにはなくてはならない概念です。
ブルゴーニュ地方は、コート・ド・ニュイとコート・ド・ボーヌに分かれ、それぞれに村あり、畑があり、区画、等級があります。

 

 

 

地層、土壌、気温、日照、風向きその他もろもろの要因でワインの味に影響を及ぼします。
特に地層が重要となりますが、ワインの根はコーヒーと異なり垂直に伸びますので、様々な地層の養分を吸収しますので、地形が重要にもなります。
詳しくはwww.bourgogne-wines.jp/を参照ください。

 

 
ブルゴーニュは世界最高の風味を生み出すワイン生産地のはずです。
この気象条件下の栽培適地を探し求めてカルフォルニアにワイン農園ができ、ピノ・ノワールが植えられたわけです。
そして、最終的に適切なクローンを探し当てる歴史を刻んできたのだと思います。
某ソムリエは、「そりゃ、500年以上前から修道士が土をなめながら葡萄の栽培場所を決めてきたんだから」とまあ、当たり前のように言います。

 

 

 

 

この産地の赤ワインがピノ・ノワール(以下Pinot)という単一品種であるが故に、テロワールにより、道1本隔てた場所でもその差異がわかり、さらにつくり手による風味の差異も感じることができます。 もちろんボルドーでもテロワールは重要ですが、3種の品種をブレンドしますので、Pinotのテロワールの方がわかりやすいというか重要ということになります。
私がほとんどルゴーニュしか飲まないのは、テースティングの勉強になるからにほかなりません。コーヒーの仕事に就いた時からこの概念が重要と考えていました。

 

 

 

 

スペシャルティコーヒーにとっては、この概念は極めて重要です。
SCAAは、1978年のコーヒー会議でのErna knutsen女史の「特別な地域の地理的条件が特別な風味を生む」という言葉を「よりどころ」にしています。
この言葉は、SCAAが1982年の発足前に語られています。
ブルゴーニュでの、当たり前の概念を述べたにすぎませんが、当時この意味を理解できるコーヒー関係者は世界中に皆無と言ってよいくらい少なかったと想像できます。
(私が、1990年代にこの言葉を使用した際も、日本のコーヒー業界ではまだ理解されませんでした。)

 

 

 

そのため、SCAA会員の一部には、いつのころからか?knutsenさんは尊敬の対象と言ったらよいのか?崇拝の対象と言ったらよいのか?・・・あがめられ、評価されています。

 

 

 

 

話はそれましたが、もう一つ、ワインで重要な概念として熟成があり、優れたテロワールと優れた作り手によりもたらされるもので、長い時間をかけてゆっくりと酸化し、複雑で味わい深い風味を醸し出します。 対して、量産ワインは熟成に向かず早めの消費を求められます。

 

 

 

 

残念ながらこの熟成に付き合うには、10年や20年の歳月をもってワインを見守っていかなければなりません。20年前のワインをレストランやワインバーで飲むことは難しく、運よく飲めたとしても料理の数倍から十倍の値段になってしまいます。
その風味の変化は、主にはアミノ酸の働きが強く感じられ、よい熟成風味は、グルタミン、アラニンやアスパラギンその他アミノ酸の変化が大きく寄与していると推測します。
私が、このブルゴーニュのアミノ酸の味を最初に感じたのはDRC (ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ)のワインでした。
ワインの場合は官能的に感知できますが、コーヒーの場合は残念ながら感知できませんが、旨味のもとになっていることは思います。

 

 

 

余計なことですが、日本人は出汁で旨味の感性を鍛えられていますが、フランス人は熟成肉やワインで旨味を感じ取っているのだと思います。
さてここからが、個人的に極めて重要な問題です。

2000年代の終盤あたりからでしょうか?
ブルゴーニュのワインの風味が変わり始めました。
明確な原因は不明です。
ここ10年くらいでブルゴーニュを飲んだ方にはわからないでしょうが、冷涼な気候下において栽培されていたPinotは気候変動の影響を受けているのかもしれません。
もしくは、評論家、消費者の嗜好の変化に徐々に影響を受けているとも推測はできますが、ワインの論文は読んでいませんので明確なことはわかりません。

 

 

 

 

しかし、ここ10年、明らかにワインの色は濃くなり、味は濃厚になり、ピノ・ノワールの繊細な味わいはかげを潜めています。
毎年、ブルゴーニュの著名生産者のルージュが入荷するたびに味見のために飲んできました。
おいしいのですが、おいしさが違うのです。
わかりやすいたとえでいえば、昔のボジョレーヌーボーはまだワインになりきっていないイチゴシロップのような味でしたが(だからおいしくない)。
最近のものは、きっちりと仕上がってワインになっている印象です。
作り手の技術力が向上したとも言えますが、そうであればヌーボーを飲む必要性は見出せません。

 

 

 

 

とにかく、ワインの水色は濃く、味は濃厚でとても従来のブルゴーニュではありません。
ブルゴーニュそのもののテロワール、特に気候条件の変化が何らかの影響を与えているのではないかと推測します。
まるで、陽光を浴びた南フランスのオルガニックワインであるかのようです。
昨年のブルゴーニュワイン委員会のテースティング会場でもそれを強く感じました。

 

 

 

 

フランスの優れたボルドータイプのワインは、すでに世界の多くの産地でそれに匹敵するようなものが作られカルトワイン化しています。
ブルゴーニュンワインのみはテロワールゆえに他の生産地のPinotとは一線を画すと信じてきました。 少なくとも、熟成の味は他の産地では味わえないものと思っていました。

しかし、2008年のグロフィエのボンヌマール(グランクリュ:特級)を昨年にあけたときに、イメージしたグランクリュの味ではありませんでした。
あけるのが早すぎ、2028年にあけるべきだったとも思ったのですが、すでに味の質の変化を感じてしまいました。

 

つづく