コーヒーとサステナビリティ

コーヒーとSDGs 第4回 コーヒーと貧困削減

コーヒーとSDGs 第4回 コーヒーと貧困削減

この連載の前々回で述べたとおり、SDGsの17の目標のうち最初の6つは「人間(People)」に関するものです。以降の11の目標もテーマごとにグループ化できます。目標7~11は「繁栄(Prosperity)」、12~15は「地球(Planet)」、16は「平和(Peace)」、17は「パートナーシップ(Partnership)」です。これら5つのグループはすべて頭文字がPで始まることから、SDGsの「5つのP」として知られています。

今回は最初の「P」である「People」を取り上げます。

 

Peopleに関するSDGsの目標1~6


 

People(人間)に関するものとしてまとめられる目標1~6を簡単に見てみましょう。

 

目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる

目標2:飢餓を終わらせ、食料の安定確保と栄養状態の改善を実現し、持続可能な農業を促進する

目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を促進する

目標4:すべての人々に、だれもが受けられる公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

目標5:ジェンダー平等を達成し、すべての女性・少女のエンパワーメントを行う

目標6:すべての人々が水と衛生施設を利用できるようにし、持続可能な水・衛生管理を確実にする

(訳文は蟹江憲史『SDGs(持続可能な開発目標)』中公新書2604(2020年)によった。)

 

一見すると、これら6つの目標には相互につながりがないようです。しかし、少なくとも一つのキーワードを中心にすべて結びついています。それは目標1で取り上げられている「貧困」です。

 

貧困とは


私たちが「貧困」と聞くと、単に「おカネがない」ということを想像しがちです。もちろん、おカネ(所得や財産)が乏しいことも貧困の一側面です。しかし、SDGsで使われる「貧困」にはもっと広い意味があります。それは「多様な生き方を選択する自由が剥奪されている状態」のことです。

ちょっとわかりづらいので、例を挙げましょう。目標6は「水」に関することで、その下にあるターゲット6.1はこう述べています。「2030年までに、すべての人々が安全で安価な飲料水をどこでも利用できるようにする。」水道普及率がほぼ100%の日本では想像が難しいですが、安全な飲み水を得るために1日に何時間もかけて家と水場を往復しなければならない人々も世界にはまだ多数います。もし水道が来ていれば、今は水汲みに費やさなければならない膨大な時間を別のことに使えたでしょう。こう考えると、安全な飲料水がすぐに得られないというのは、選択の自由を奪われていることでもある、ということがわかります。

このようにして、「自由が剥奪されている状態」すなわち「貧困」は、SDGsの目標1以外の目標(特に「People」に関する6つの目標)で形を変えながら取り扱われています。

「貧困」を「剥奪された状態」ととらえることは、SDGsが採択される前から一般的になっています。たとえば国連開発計画(UNDP)では、貧困を健康・教育・生活水準という3つの次元において「剥奪されている状態」ととらえ、「多次元貧困指数(MPI)」を国ごとに算出しています。3つの次元はさらに10の指標に分かれ、各指標においてどのような状態だと貧困につながってしまうのかが具体的に示されています(下表参照)。

表:多次元貧困指数(MPI)とSDGsの関係

貧困の次元 指標 剥奪状態 対応するSDG
健康 栄養 70歳未満の大人または栄養情報のある子どもが栄養不足。 目標2(特に2.1・2.2)
子どもの死 調査日までの過去5年間で死亡した18歳未満の子どもが世帯内にいる。 目標3(特に3.2)
教育 就学年数 「就学年齢+6歳」以上の世帯員の中に就学経験年数が6年以上の者がいない。 目標4(特に4.1・4.6)
子どもの就学 学校に通うべき年齢の子どもが就学していない。
生活水準 炊事用燃料 糞・木材・炭・石炭のいずれかで炊事している。 目標7(特に7.1)
衛生 世帯の衛生設備が(SDGs指針に従って)改善されていないか、改善はされているものの他世帯と共用している。 目標6(特に6.2)
飲料水 (SDGs指針に従って)改善された飲料水を利用できないか、改善された水が家から徒歩で往復30分以上かかるところにしかない。 目標6(特に6.1)
電力 電気の供給を受けていない。 目標7(特に7.1)
住居 屋根・壁・床の建材のうち少なくとも一つが不十分(例:床材が泥・砂などだったり、屋根材・壁材が草や段ボールであったりする)。  
資産 ラジオ、テレビ、電話、コンピュータ、家畜が引く荷車、自転車、バイク、冷蔵庫のうち2つ以上と自動車かトラックを所有していない。  

 

貧困(目標1)と水(目標6)の関係を上述しましたが、この表を見ると、それ以外の目標も貧困と関係していることがわかります。また、貧困がおカネだけでなく、もっと多次元にわたる「剥奪」としてとらえられていることもわかります。

 

それでもおカネは大事


 

これまで述べてきたことに反するようですが、それでもやはり「おカネ」は大事です。だからこそ、貧困を明示的に取り扱っている目標1の最初のターゲット(1.1)、すなわちSDGsの全169のターゲットの筆頭がおカネを基準に「極度の貧困」を定義しているのです。

おカネに余裕があれば、家族の健康保険料や子どもの学費を支払うことができ、医療や教育へのアクセスが容易になります。これによって「多次元貧困指数」の3つの次元のうち2つが緩和されることに繋がります。これは実際、ルワンダで私が会った農家の人々が口をそろえて言っていることでもありました(前回参照)。

コーヒーを通じてSDGsの「People」の側面に寄与しようとする際、最も基本的かつ重要なのは、やはり生産者に対して適正な対価を支払うことだと思います。適正な対価とは、生産者の努力とその結果(製品の品質)に見合う額の対価です。

適正な対価を得ることで生産者に余剰が生まれれば、その余剰によって生産者には選択の自由が広がります。より大きな自由を得ることが、一人ひとりが「自分らしく」生きることに繋がります。

 

堀口珈琲によるSDGsへの最大の貢献


 

堀口珈琲は品質の高い生豆を求め、それに対して適正な対価を支払っています。これは生産者が「自分らしく」生きる可能性を高めています。このことが堀口珈琲のSDGsに対する最も重要な貢献だと私は考えています。なぜなら、この連載の第2回で述べたようにSDGsは「世代を超えて、すべての人が、自分らしく、よりよく生きられるように、世界を変革するための目標」にほかならないからです。

 

 

伊藤 亮太(いとう りょうた)
株式会社堀口珈琲 取締役CFO ( 最高財務責任者 ) / CSO ( チーフ · サステナビリティ· オフィサー)
大学卒業後、宇宙開発事業団(現JAXA)に10年間勤務する。2002年にコーヒー業界へ転身し、2003年に堀口珈琲に入社。以来一貫して海外のコーヒー関係者との連絡調整を担当する。2013年4月から2020年6 月まで代表取締役社長を務め、2020 年 7 月より現職。

 

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