コーヒーとサステナビリティ

コーヒーとSDGs 第5回 堀口珈琲とSDGs

コーヒーとSDGs 第5回 堀口珈琲とSDGs

前回の「People(人間)」(目標1~6)に続き、今回はSDGsの2つ目のPである「Prosperity(繁栄)」(目標7~11)を取り上げましょう。ここでいう「繁栄」は「経済」と読み替えることができます。この連載の第2回でも触れたとおり、経済は持続可能な開発に必要な三側面のひとつ。ほかの二側面(環境・社会)とともにSDGsにもしっかり組み込まれています。コーヒーとの関連でいえば、目標1~6が主に生産国での課題に関係していたのに対し、目標7~11は消費国での課題にも大いに関係します。

 

Prosperityに関するSDGsの目標7~11


 

Prosperity(繁栄)に関するものとしてまとめられる目標7~11を列挙します。

 

目標7:すべての人々が、手頃な価格で信頼性の高い持続可能で現代的なエネルギーを利用できるようにする

目標8:すべての人々にとって、持続的でだれも排除しない持続可能な経済成長、完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する

目標9:レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する

目標10:国内および各国間の不平等を減らす

目標11:都市や人間の居住地をだれも排除せず安全かつレジリエントで持続可能にする

(訳文は蟹江憲史『SDGs(持続可能な開発目標)』中公新書2604(2020年)によった。)

 

一読してわかるとおり、「繁栄」に関する目標群といっても、その内容は多岐にわたります。目標1~6には貧困の削減という各目標に通底する目的がありましたが、目標7~11にはそうした共通テーマが見当たりません。なので、今回は個別に見ていくことにしましょう。

また、これらの目標が消費国での課題にも大いに関係すると述べたこともあり、目標7~11については、これまでの回と異なり、当社(堀口珈琲)による取り組みの事例を中心にご説明しようと思います。宣伝じみていて少し気が引けるのですが、お付き合いいただければ幸いです。

堀口珈琲のSDGsへの取り組みは、連載の前回に取り上げた目標1~6すなわち貧困の削減などに貢献する、コーヒー生豆の産地における活動が中心です。そうした活動は単なるチャリティではありません。生豆の品質向上を促すことと、それに対して適切な対価を支払うことを柱とし、生産者と私たちの両方(そしてお客様)にとって互恵的であることを目指した取り組みです。

このことを前提としたうえで、目標7~11への取り組みについて以下に順に述べていきます。

 

目標7:すべての人々が、手頃な価格で信頼性の高い持続可能で現代的なエネルギーを利用できるようにする


この目標の下にある5つのターゲットのうち、当社が特に注力しているのは次の2つです。

 

  • ●7.2:2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に増やす。
  • ●7.3:2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。

 

ターゲット7.2にある「再生可能エネルギー」とは、太陽光・風力・地熱・水力・バイオマスなどを源とするエネルギーで、温室効果ガスを発生しません。このうち、バイオマスで発電された電力(グリーン電力)を横浜ロースタリーと3つの店舗で使用しています。これらの事業所では照明や空調、調理・冷蔵といった用途で多くの電力を使用します。その電力をグリーン電力でまかなうことで、温室効果ガスの発生を抑制することができるようになりました。

ご存知かもしれませんが、コーヒーのライフサイクル(コーヒーの木の栽培から飲み物としてのコーヒーの消費や廃棄物の処理までに及ぶ全工程)の中で最も温室効果ガスを発生させているのが、最終消費の段階、すなわちコーヒーを抽出して飲む段階だといわれます。その理由のひとつが、コーヒーの抽出に必要なお湯をわかすことです。堀口珈琲ではお湯をわかす熱源もガスから電力に切り替えています。こうした電化の促進の分も温室効果ガスの削減に寄与しています。

ターゲット7.3における「エネルギー効率の改善」にも当社は取り組んでいます。対象にしているのは冷暖房に使うエネルギー(電力)です。具体的には、横浜ロースタリーと世田谷店に全熱交換機能が付いた換気設備を導入しています。この換気設備を併用することで(感染症予防のために十分な換気をしつつ)空調のエネルギー効率を改善することができるようになりました。

全熱交換を伴う換気についてご説明しましょう(技術的な話になるので、興味のない方はこの段落を読み飛ばしていただいて結構です)。換気は屋内外の空気を入れ替えることですが、全熱交換を伴う換気では、その際に行き交う空気の間で熱を受け渡し(交換)を行なっています。たとえば冬場は外気が冷たく内気は暖かい状態です。通常の換気ではせっかく暖房で暖めた空気をそのまま外に排出し、代わりに冷たい空気を室内に取り込むことになります。室内に入ってきた冷たい空気は暖房で一から暖めなければなりません。しかし、全熱交換機能付きの換気装置を使用すれば、屋外に排出される温かい空気から熱を取り出し、室内に取り込まれる冷たい空気に移すことができます。すなわち、暖房が発生させた熱を再利用し、あらかじめ暖められた空気を室内に取り込むことができるのです。このため、空気自体は入れ替えながら、熱は無駄に屋外に排出せず、室内にとどめることができます。この分、暖房はがんばる必要がなくなり、電力の消費も抑えられます。夏場はこれと逆のことを行ない、外から取り込む熱い空気からあらかじめ熱を取り除いたうえで室内に導入することができるので、冷房への負荷を弱めることができ、その分、電力の消費を抑制できます。

一方、エネルギーに関しては課題もあります。コーヒー豆の焙煎にはLPガス(液化石油ガス)を使用しており、今後もこれを継続する見込みです。その分はどうしても二酸化炭素の排出を回避することができません。この分を相殺するための取り組みを今後は進めていく必要があると考えています。

 

目標8:すべての人々にとって、持続的でだれも排除しない持続可能な経済成長、完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する


 

目標8の文言は長いですが、アイコンに表示されている「働きがいも経済成長も」というフレーズがその趣旨を端的に表しています。この目標の下には12ものターゲットがありますが、その中でも当社と関わりが強いのは次の二つです。

  • ●ターゲット8.5:2030年までに、若者や障がい者を含むすべての女性と男性にとって、完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を実現し、同一労働同一賃金を達成する。
  • ●ターゲット8.7:強制労働を完全になくし、現代的奴隷制と人身売買を終わらせ、子ども兵士の募集・使用を含めた、最悪な形態の児童労働を確実に禁止・撤廃するための効果的な措置をただちに実施し、2025年までにあらゆる形態の児童労働をなくす。

 

ターゲット8.5への取り組みのひとつは国内で行なっています。知的障がいのある方々が働くカフェへの支援です。その内容は、同カフェのスタッフに対してコーヒーの抽出のしかたを指導することや、コーヒー豆を安価に提供することなどです。

ターゲット8.5に対する貢献はコーヒー生豆の調達を通じてもなされています。当社の生豆調達先の農園では、労働者を適正に処遇しています。高品質な生豆を生産するため、完熟したコーヒーの果実だけを収穫することを求めるなど、労働者に課された条件は厳しいのですが、その分、厚い待遇がなされています。もしそうしなければ、人手不足の昨今、労働者はほかの農園に行ってしまい、労働力を確保することができなくなってしまうのです。賃金だけでなく、労働者が農園に滞在する間に利用できる宿泊施設や彼らの子どもが通える教育施設(小学校など)を設けるといったこともなされています。私たちも産地に行った際は、こうした施設をできるだけ視察するようにしています。こうした労働者の適正な処遇は、ターゲット8.7への貢献にもなっています。

 

目標10:国内および各国間の不平等を減らす


 

当社は高品質な生豆を調達し、それに対する適正な対価を支払っています。この対価は生豆のサプライチェーンに関わるすべての関係者に分配されますが、最も上流にいる農家などの生産者も当然、分配先のひとつです。彼らは自国における所得下位者である場合が多いことから、生豆の品質に応じた適正な対価の支払いは、次に示すターゲット10.1に直接的に貢献していると考えられます。

  • ●ターゲット10.1:2030年までに、各国の所得下位40%に属する人々の所得の伸び率を、国内平均を上回る数値で着実に達成し維持する。

 

2022年10月に実施のイベント「ルワンダと繋がる12日間」で得られた売上高を原資として当社は同国でのコーヒー品質向上プロジェクトに資金を拠出しました。これは通常の生豆代金の支払いとは別に、それに追加して行われるものです。この取り組みは、アフリカの内陸にある後発開発途上国への直接投資であることから、次に示すターゲット10.bに貢献します。

  • ●ターゲット10.b:各国の国家計画やプログラムに従って、ニーズが最も大きい国々、特に後発開発途上国、アフリカ諸国、小島嶼開発途上国、内陸開発途上国に対し、政府開発援助(ODA)や海外直接投資を含む資金の流入を促進する。

 

当社ではまだ取り組めていない目標


Prosperity(繁栄)に関する5つの目標のうち、目標9(レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する)と目標11(都市や人間の居住地をだれも排除せず安全かつレジリエントで持続可能にする)に対しては、直接的かつ具体的な取り組みを当社は行っていません。

 


伊藤 亮太(いとう りょうた)
株式会社堀口珈琲 取締役CFO ( 最高財務責任者 ) / CSO ( チーフ · サステナビリティ· オフィサー)
大学卒業後、宇宙開発事業団(現JAXA)に10年間勤務する。2002年にコーヒー業界へ転身し、2003年に堀口珈琲に入社。以来一貫して海外のコーヒー関係者との連絡調整を担当する。2013年4月から2020年6 月まで代表取締役社長を務め、2020 年 7 月より現職。

 

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