コーヒー豆・粉の正しい保存方法をご存知ですか?
インターネット等で調べてみると、「常温でOK」「冷蔵庫での保存を推奨」「密封はしなくていい」「真空にすべき」など、実に様々な“正しい保存方法”で溢れています。
そんな“諸説ある”コーヒー豆の保存方法ですが、品質を変化させる要因を正しく理解すれば、必然的に正しい保存方法が見えてきます。本ページではおいしさを長持ちさせるための最適な保存方法をご紹介します。
コーヒーの保存方法に気を配る必要がある理由
焙煎後は風味が変化・変質していくため
そもそも、コーヒー豆・粉の賞味期限はどのくらい長く設定されているかご存知ですか?
全日本コーヒー協会の見解では【1~2年】とされています。
「そんなに賞味期限が長いなら、保存方法なんて気にしなくてもよいのでは?」
そう思われる方も多いかもしれません。
確かに、【安全性】という観点において、コーヒー豆は長期的に品質を保持できます。カビが生えたり腐敗したりすることはまずないからです。
一方、【風味の良い状態】という観点ではさまざまな賞味期限が設けられています。高品質なコーヒー豆を取り扱う専門店では、賞味期限を製造日から180日後、90日後、60日後など、全日本コーヒー協会の見解よりも短く設定されていることが多いです。
「そんなに短いの?!」と驚かれるかもしれませんが、焙煎から間もない鮮度の良いものと、日数が経過したものを飲み比べるとその差は歴然です。なぜなら、コーヒー豆は焙煎からの日数経過とともに風味が変化・変質していくからです。
つまり、コーヒー豆を購入した後も、おいしさを長持ちさせるために変化・変質に影響を与える要因を避け、「保存方法」に気を配る必要があるのです。
風味を変化させる要因から守り、おいしい状態を長く保つため
では、何がコーヒー豆の状態を変化させるのでしょうか。
その要因として、水分、酸素、光(紫外線)、温度、状態(豆か粉か)、の5つが挙げられます。
1つずつ見てきましょう。
1.水分(湿度)
水分はコーヒー豆の変化を速めるため、できるだけ乾燥した状態を保つことが望ましいと言えます。開封後は「袋を密閉する、もしくは密閉できる保存容器に移し替えて、極端に湿度の高い場所に置かない」くらいの配慮で十分でしょう。
2. 酸素
空気中に含まれる酸素は長期的には品質を変化させる一因となります。賞味期限を1年などと長く設定している商品を製造する場合、製造業者は酸素のことを気にする必要があります。また、消費者も商品を購入してすぐに飲まない場合は未開封のままにしておくに越したことはありません。袋の中に酸素がない状態になっているタイプの商品(窒素充填されていたり、脱酸素剤が入っていたりする商品)の場合は特にそうです。
しかし、ひとたび開封してしまったら空気中の酸素との接触は免れないので、純粋に酸素の観点からは容器のことはあまり気にしなくてよいでしょう(外部からの水分やニオイの遮断についてはまた別の話です)。酸素の影響が出てくるのは比較的長期でのことですし、そもそも酸素の影響を回避するためにはその濃度を1%未満にしないとあまり意味がありません(そんなことは一般家庭では無理です)。
なお、コーヒー豆の風味が「劣化」する原因を「酸化」に求めることが多く見受けられますが、そうした「劣化」は香気成分の喪失によるところが実は大です。
3.光(紫外線)
光(紫外線)はコーヒーの色調や風味に影響を与える要因の1つです。購入したコーヒー豆のパッケージに遮光性があれば特に心配はいりません。透明な包材や保存容器で長期間保存する場合は暗所に置いた方がよいでしょう。
4.温度
温度は化学反応の速度に影響を与えます。一般に、温度が10度下がると変化の速度は半分になると言われています。コーヒーも例外ではありません。長期保存のためには「高温を避け、できるだけ低温で保存する」が基本となります。
5.コーヒーの状態(豆か粉か)
最後に、コーヒーの状態(豆か粉か)です。豆のまま保存するよりも粉に挽いて保存する場合の方が、変化のスピードが圧倒的に速くなります。列挙した5つの中で、最も影響度の高い要因です。
コーヒー豆は蜂の巣状の構造をしており、フレッシュな焙煎豆はそこに香気成分が閉じ込められています。いわば香りのカプセルです。ところが粉に挽くことで、閉じ込められていた香気成分はかなりの量が流出してしまいます。
また、コーヒー豆の内部には焙煎によって生じた炭酸ガスが蓄えられています。不活性ガスである炭酸ガスは、バリアとなって酸素の影響による風味の劣化などを抑制してくれます。豆の状態であれば、炭酸ガスは少しずつ滲み出ていくため、ある程度の期間バリア効果は持続します。しかし、粉に挽くと一気に放出されてしまい、バリア効果は格段に低下します。
つまり、おいしさを長持ちさせるならできる限り「豆のまま保存」が推奨されます。
コーヒー豆・粉の最適な保存方法
コーヒー豆の保存方法についての基本的な考え方
前章で挙げた5つの要因から導きだされる保存方法の基本的な考え方は、
「高温多湿を避け、袋や移し替えた容器は密閉し、冷暗所で保存する(できれば粉に挽かず豆のままで)」
となります。
この基本を抑えつつ、パターンに応じてより具体的に「最適な保存方法」をご紹介してきましょう。
粉に挽いた状態で購入した場合
コーヒー専門店などで鮮度の高い(=焙煎からの日数経過が短い)コーヒー豆を購入時に粉に挽いてもらった場合、すぐに【冷凍保存】することをおすすめします。なぜなら、粉に挽いた時点から変化のスピードが速まっているからです。粉に挽いてすぐの状態でいれたコーヒーと、1週間後にいれたコーヒーでも差は明確に現れます。それくらいのスピード感で変化していくため、より積極的に変化・変質を抑制する保存方法をとる必要があります。
袋や保存容器を密閉し、冷凍庫に入れて大幅に温度を下げて保存することでおいしく飲める期間を長くすることができます。焙煎したばかりの新鮮なコーヒー豆を粉に挽いた場合、常温であれば1週間程度で風味が変化してしまいますが、冷凍であれば1ヶ月程度はおいしく飲むことができます。
スーパーや量販店の棚に粉の状態で並んでいる商品を購入された場合、そのコーヒーがいつ焙煎されたものかを識別することは難しいことが多く、ものによっては焙煎からだいぶ日数が経過して既に本来の風味が損なわれてしまっているかもしれません。とはいえ、開封後は変化のスピードを抑えるために冷凍保存が望ましいでしょう。
豆の状態で購入した場合
コーヒー専門店などで鮮度の高い(=焙煎からの日数経過が短い)コーヒーを豆の状態で購入された場合、まずは【常温で保存】でも構いません。というのも、コーヒー豆は必ずしも焙煎直後がおいしさのピークではなく、そこから急速に劣化していく訳でもないからです。焙煎直後に感じられる焙煎由来の香ばしさが日数経過と共に穏やかになっていき、徐々に華やかな香りや甘みといった個性を感じやすくなってくることもあります。
焙煎してから数日の新鮮な豆を購入された場合、常温のまま夏で2週間、冬で1カ月程度はおいしくお楽しみいただけます。それでも飲みきれない場合は冷凍庫に入れてください。半年程度はおいしい状態を維持できます。もちろんお好みでもっと早く冷凍庫に入れても問題ありません。
スーパーや量販店の棚に並んでいる商品を購入された場合、そのコーヒーがいつ焙煎されたものかを識別することは難しいことが多く、あまり新鮮ではないかもしれません。そういった場合は「長く楽しむ」ことを優先し、開封後は冷凍保存がいいでしょう。
コーヒー豆の冷凍保存にまつわるQ&A
前章において、必要に応じた冷凍保存を推奨しました。本章では冷凍保存にまつわる疑問にお答えしていきます。
Q.冷蔵庫よりも冷凍庫の方がいいのですか?
変化のスピードを抑制させるという観点から、温度をより下げることができる冷凍庫での保存の方がより長くおいしさを保つことができます。
Q.冷凍庫にいれても肉や魚のニオイはうつりませんか?
冷凍保存する際に、透過性の低い素材の袋をクリップなどで閉じる、もしくはガラス容器や厚手のプラスチックコンテナに移し替えれば問題ありません。食品用ラップも比較的透過性が低いのでコーヒーの袋をラップで覆うのも効果があります。
Q.冷凍庫から取り出す際に吸湿してしまい、豆の品質を劣化させるって本当ですか?
A. 使用する分を取り出し、すぐに密閉して冷凍庫に戻せば気になるほどの劣化は起きません。確かに冷たい豆・粉はとても吸湿しやすいのですが、冷凍庫に戻せば低温の効果が働くからです。しかし、吸湿してしまった豆・粉を常温に置いておくのは避けましょう。冷凍庫から出した豆・粉を再び冷凍庫に戻す予定がないなら、開封は常温に戻してから行いましょう。
Q.冷凍保存の場合には解凍が必要ですか?
冷凍庫から取り出した豆はすぐに挽いても問題ありません。抽出も普段通りの方法でいれていただいて大丈夫です。
まとめ
焙煎後のコーヒー豆を変化させる5つの要因(水分、酸素、光、温度、豆か粉か)から導きだされるのは、「高温多湿を避け、袋や移し替えた容器は密閉し、冷暗所で保存する(できれば粉に挽かず豆のままで)」という基本的な考え方です。
これを踏まえつつ、より具体的に
・豆のまま購入した場合は2週間から4週間は常温で問題ないが、残りは冷凍庫で保存
という方法を「最適な保存方法」としてご紹介しました。
ぜひご自宅で実践し、おいしいコーヒーを「より長く」お楽しみください。
参考文献)
「コーヒー検定教本」( 全日本コーヒー検定委員会事務局)
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