たのしいコーヒー

「ト」か「ド」か

コーヒーの精製方法の一つに「水洗式」があります。水洗式で精製されたコーヒー(主に生豆)のことは washed coffee と言ったりします。

この washed をカタカナ表記する際、「ウォッシュト」とする人もいれば「ウォッシュド」とする人もいます。同じ英単語に対応するのに、カタカナ表記にはなぜ二通りあるのでしょうか。

堀口珈琲では「ウォッシュト」と表記しています。最後を「ド」と濁らせません。それには理由があります。英語の washed の最後の d が濁って発音されないからです。

より正確に書くと、washed の d は表記こそ d(ディー)ですが、発音は[d]+[曖昧母音]の有声音ではなく無声音[t]なので、わざわざ日本語で書いたり話したりするときに「ド」と濁らせる必要はないだろう、ということです。

有声音は声帯振動を伴う音で、反対に無声音は声帯振動が伴わない音です。声帯が振動しているかどうかは、手のひらを自分の喉に当てて発音してみるとわかります。母音の「あいうえお」ではすべて手に振動が伝わってきますね。

一方の無声音ですが、たとえば「増田さん」と言ってみてください。マスダの「ス」のところでは手に振動が伝わってきませんよね。実際は[masuda]ではなく[masda]のように発音しているのがわかります。「岸田さん」の「シ」も同様ですね。「楽天」の「ク」も関東出身の人はたぶん母音を伴わず[k]と発音していると思います(関西の人だと[ku]と発音しているかもしれません)。

Washed は「洗う」という意味の動詞 wash の過去分詞で「洗われた」という意味です。動詞を原形から過去形や過去分詞にするとき末尾に -d や -ed を付けることが多いですが、この -(e)d の直前の部分の発音が無声音ならば -(e)d も無声音[t]と発音します(学校で習ったと思います)。Washの sh も無声音なのでこれに続くed も[t]と無声音になるわけです。

無声音[t]をカタカナ表記する場合「ト」を当てることが一般的です。たとえば、out は「アウト」、set は「セット」、cut は「カット」、ticket は「チケット」というふうに。

ついでに取り上げると、”pulped natural” の pulped のカタカナ表記も同様です。Pulped の ed は、直前の p が無声音ゆえ[t]と発音されます。なので、慣習に従えば「パルプト」となります。「パルブド」ではありません。

もちろん、有声音と無声音の関係は濁音と清音の関係に並列できるものではありません。「英語の発音と日本語の発音は根本的に違うので、どんな風にカタカナ表記したって大差ないだろう」「そんな細かいことにこだわらなくてもいいじゃん」というのもわかります。とはいえ、washed の d を有声音でもないのに、わざわざ「ド」って書く必要もないだろう、慣習的に「ト」って書くんだから、というのが私の考えです。

今回はここまで。「たのしいコーヒー」の第1号記事はコーヒーそのものに関することではありませんでした。すいません。少しでも「たのしい」話だったら幸いです。