パパ日記

スペシャルティコーヒーのテイスティング(カッピング)2 新しい官能評価方式へ

https://reserva.be/coffeeseminar
堀口珈琲研究所のコーヒーセミナー

 

テイスティングセミナーは、初級と中級を行っています。中級といっても、基本的には上級に相当しますので上級はありません。
このセミナーは、スペシャルティコーヒー(SP)の黎明期の2004年から実施してきた「テイスティング会」の継続となります。よいコーヒーを理解していただくことと、個人的な自分の勉強のために行っているセミナーでもあり、SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会:現在はSCA)方式で評価してきました。対象は、一般消費者からプロ(カフェ、自家焙煎店、ロースター、輸入商社など)の方々どなたでも参加できます。

 

 

2004年頃から世界的に運用され始めたSCAA方式は素晴らしいものです。それまでの生豆の品質基準の曖昧から、客観的な官能評価を取り入れて、SPの基準を明らかにした点で、画期的で衝撃的でした。

SCAA方式は、①生豆の鑑定、および、②官能評価からなり、官能評価で80点以上をSPの基準としています。SCAAのカッピングジャッジ(現在のQグレーダー )の養成とともにSPの評価方法として世界的に浸透しています。各生産国の団体、研究機関、その他コーヒー関連の論文でも、官能評価データについては、このSCA方式を使用するのが一般的です。

 

コーヒー関連の論文でも、官能評価データについては、このSCA方式を使用するのが一般的です。

しかし、このSCA方式の官能評価については、2010年以降のSPの高品質化とともに、運用上以下のようないくつかの難しさというか、問題点も見られるようになったと考えます。
この点については、個人的な見解ですので、その点留意してください。

①10項目の官能評価表(カッピングフォーム)は、Washed精製のための評価方法と考えられます。
この表の作成時期(2003年頃)には、Naturalの優れた豆はありませんでした。

②2010年以降にエチオピアG-1中米産のNaturalの品質が著しく向上しましたが、Naturalの官能評価のコンセンサスは形成されていません。本来であれば、この官能評価表で代用するのではなく、新たに作成すべきと考えます。
一部にNaturalをフルーティーと好む傾向がみられますが、あくまで精製プロセスにおける酵母の発酵の程度、質などから評価すべきと考えます。
少なくともアルコール発酵しているようなもの(乾燥の不備などによる)を評価すべきではないと考えます。

③同一生産国の生豆に対して行うには有用ですが、多生産国の比較用ではないことも理解しておく必要があります。当然のことですが、生産国や、品種によるスコア差は生じます。
スコアのみで評価しない配慮も必要と考えます。
例えば、ティピカ種よりゲイシャ種の方がスコアが高くなりますが、ティピカ種が劣っているわけではありませんので、この官能評価表を使用するには、その点の理解は必要です。
また、世界の生産量の35%程度を占めるブラジル産のコーヒーは、1)酸味が弱い傾向があり(MediumでケニアのpHga4.8であればブラジルは5.1程度)、2)Washedとはクリーンさが異なりますので、根本的にコーヒーの質(種類)が異なります。ブラジル専用の官能評価表も必要になります。

④2010年以降のSPの品質向上に伴う2極化、3極化に対して90点以上、95点以上の評価の基準がはっきりしません。パナマ産のゲイシャ種に93点をつけるのであれば、優れたケニア産にも93点をつけるべきと考えますが、現実にはそのような運用はみられません。

⑤焙煎度は、風味を把握するためミディアム(SCAの規約による焙煎度)で行いますが、販売する場合の焙煎度は、焙煎可能範囲と適性焙煎度で判断しなければなりません。
官能評価には、生豆のポテンシャルである1)鮮度保持の期間、2)風味のきわだつ時期、3)可能な焙煎度の範囲などの評価の視点も必要になると考えます。

⑥SCAの官能評価表には、日本の食品における官能評価項目にある、「苦味」「旨味」が入っていませんので、
今後は検討の余地があると思います。
日本の食文化の、「5味」の「苦味」は春の味で、「旨味」も日本人には重要な味です。
コーヒー生豆にはグルタミン酸が含まれ、焙煎による化学変化でアスパラギン酸の比率が高まります。
「苦味」は、カフェイン(苦味に10%程度関与している)以外に化学成分での裏付けは難しいですが、評価軸を作成すれば日本人には可能と考えます。

⑦各項目の評価基準に対して科学的な裏付けがとぼしいとい感じられます。
今後は、理科学的な数値などとの相関性から評価基準を作成していく必要があると考えています。
そのため、大学院では官能評価と理化学的数値と味覚センサーの相関性について分析し、現在も国際食農科学の研究室で継続的な分析を継続しています。

上記①から⑦までの、こまかな説明は省きますが、「テイスティング中級」などでは解説します。

このSCA方式の官能評価表を20年近く使用していますので、非常にすぐれたものというのが基本的な認識です。
現状ではこの官能評価表に代わるものはありませんので、今後、新たな官能評価方式を作成することが個人的な課題です。
来年には、日本の学会及び海外のジャーナル論文の投稿ができればと考えています。
そこで、官能評価の専門家の方々のご意見を拝聴して行きたいとも考えています。

SCA方式については下記を参考にしてください。
1.SCAA Protocols | Cupping Specialty CoffeePublished by the Specialty Coffee Association of America
 http://Microsoft Word – PR – CUPPING PROTOCOLS V.16DEC2015.docx (scaa.org)

2.著作:2000年に出版した「コーヒーの教科書」(新星出版)

 

堀口俊英(ほりぐちとしひで)
2002 年堀口珈琲研究所設立
2019年東京農業大学・環境共生学博士課程卒業
著作:「The Study of Coffee」新星出版・2020年その他