パパ日記

コーヒーと嫌気性発酵(アナエロビック:anaerobic) その2

ワインの場合は、収穫した葡萄を通常は破砕してブレスしますが、マセラシオン・カルボニック法では破砕せず、縦型の大きなステンレスタンクに上からどんどん葡萄を入れます。
タンクの下のほうの葡萄は重さで潰れ果汁が流れ出て自然に発酵が始まります。発酵が始まると炭酸ガスが生成され、タンク全体が炭酸ガスで充満します。炭酸ガスで充満したタンクのなかでは潰れていない葡萄の細胞内部で酵素の働きによってリンゴ酸が分解されアルコール、アミノ酸、コハク酸などが生成され葡萄の皮からも成分が浸出します。
このようにして酵素による発酵を利用したものがマセラシオン・カルボニック法です。
マセラシオン・カルボニック法で造ったワインはタンニンが少ない割りには色が濃く、渋みや苦みが通常のワインより少なくなり、飲みやすくなりますが、私はあまり好きではありません。

 例えば、みそでも密封し発酵させますので嫌気性発酵ですが、途中でかき回しますのでここは好気性発酵になります。このあたりのさじ加減が難しい訳です。したがって、コーヒーの嫌気性発酵は、簡単ではなく、風味の安定にはかなりの研究が必要になると考えられます。

 これらの発想のもとになったのは、サントリーのシャンパン酵母コーヒーではないかと推測します。
完熟したコーヒーチェリーに「シャンパン酵母」を加えた結果、酵母が果肉中の糖分を得て、果実の表面で繁殖し発酵します。3日後、発酵が終わった実の表面は、赤からサーモンピンクに、内側も薄いピンク色を帯びるようで、それを乾燥します。サントリーは、シャンパン酵母によって発酵した豆には、あたらしい香気成分が出ていることをガスクロマトグラフィーで分析しています。

嫌気性発酵に関する分析研究もここ2~3年で急速に広がりつつあります。
例えば、SIAF (self-induced anaerobiosis fermentation)は微生物の行動にプラスの影響を与え、よりフルーティーな特徴を持つコーヒーをもたらすというような研究もあります。
また、コーヒー発酵に適した酵母種(Pichia kudriavzeii)と乳酸菌 (LAB) は、嫌気性段階に関与する主要な微生物群とし、豆に浸透するエステル、アルコール、酸有機、アルデヒドその他芳香族化合物などの幅広い代謝産物を生み出し独特の風味を与えるという研究もあります。

微生物培養物を使用して、新しい風味を生みだしたり、風味の向上に利用し、スペシャルティコーヒーの独特のフレーバー強化に有益な可能性があるとする研究などもあります。
コーヒーを発酵食品としてとらえれば、このような考え方も成り立ちます。
しかし、個人的には風味がよくなったと評価してよいのかの?判断は難しいと考えます。
その方法が複雑化すれば加工品としての性質を帯び、従来のコーヒーの風味や価値観を大きく転換することになり、これらが健全な方法なのかについては疑義も生じます。

最大の問題点は、特殊な風味が生じ、生産地のテロワールや品種という概念が意味をなさなくなることです。

続く