パパ日記

コーヒーのテースティング

コーヒーの香味は、生産国、生産地、品種、精製方法等であまりに多様になりました。
特に2000年以降のスペシャルティコーヒーの動きは、生産情報や希少性を求めてきましたので、香味の複雑さは増しワインと同じような状況です。
更に上記条件以外にも気象条件や栽培、精製の工程での変化さらには輸送による違いなど諸条件を加味して判断しますので、気が遠くなるような香味の変動の中で仕事をしていることになります。

 

 

それらを適切に理解するために、コーヒーのプロにはテースティングスキルが必要になってきていると思います。

 

 

2000年以前はスペシャルティコーヒーの概念は確立されていませんでしたし、品質の客観的判断は大まかであり、テースティングの技法やスキルは未成熟であったと思います。

 

 

この仕事をしてほぼ25年になりますが、生産地の本質的な香味を把握するには、テロワールや栽培、精製の知識、品種の知識などが必要だと痛感してきました。
2000年以降それらを少しずつ勉強してきましたので、その体験の中で香味のマップのようなものが未完成ながらもできつつあります。
マトリクスというか体系的というか自分なりの軸というようなものとでもいえばいいのでしょうか。
例えば、香味を産地やそのテロワールの違い、品種の違い、酸とコクの違いなどで頭の中でマップ化しています。

 

 

仕事でカッピングした時に、もしくはコーヒーを飲んだときにそのマップの中に納まらないものは新しい香味ということになり、さらに記憶されマップが広がっていきます。
そして2000年代後半から2010年代は、スペシャルティコーヒーも2極化し、新しい香味の発見も多くなり、香味は複雑化しています。

 

 
香味は感覚的にとらえますので、その記憶の手助けとして「こんな味がした」とか言語を使用し補ったりもします。多くの方が理解しやすい味の表現もあれば、難しいものもあります。
極めて個人的な感覚で表現することも多くあります。
これらはいいコーヒーであることが前提となり可能となります。

 
普通のコーヒーは香味の特徴が弱いので、香味を言葉で表現することは難しくなります。
例えばマンデリンを例にとれば
一般的なG-1であれば「コクがあり、柔らかな苦みと独特の風味がある」くらいがほめ言葉そしての表現の限界でしょう。よくない面を誇張すれば「酸がなく焦げた麦茶、ややオイル系の味、濁り感」なども感じることができるかもしれません。

 

 

しかし素晴らしいマンデリンであれば、「レモンやトロピカルフルーツの酸があり、ベルベットのようななめらかな舌触りを感じることのできるコーヒー」くらいはいえるでしょう。
さらには「杉や檜、青い芝の香りがする」ともいえるでしょうし、生豆の状態によっては「スパイスやハーブの香味、なめし皮のような味わい」などとも表現できます。
このようなことは、よいマンデリンを毎年体験することにより理解できるようになります。
したがって、コーヒーの香味に対する認識のコンセンサスの形成にはやはり時間がかかります。
私たちはプロですので、よりコーヒーを楽しんでいただきたいがゆえに香味のガイドをします。
これはワインのソムリエでも同じです。

 

 

 

またワインを例にとれば、普通のワインであれば特徴は弱くなりますので優れたワインに見られるような言葉の表現はかなり狭まります。

ソムリエでも、これらをブラインドでテースティングすれば、最低限の部分は共有化されるかもしれませんが、コメントそのものはかなり異なって、バラバラとなります。
しかし、いいワインであれば、長いテースティングの体験の中で共通のコンセンサスが出来上がってきています。ブルゴーニュの熟成した素晴らしいワインであれば、「なめし皮、シャンンピニオン、熟成した肉の甘み」など多様な表現が適切となってきます。

 

 

 

香味を人に伝えることはとても難しいことだと思います。
私が10年以上の歳月の中でとらえてきた感覚的な要素も大きく入り込みますので、他の方が理解するにはやはり経験という時間が必要にはなるでしょう。
ですから、教わる方が理解するには早いのは言うまでもありません。
最近は、香味を理解しやすい言葉や基本軸をもってお伝えしようと試行錯誤しています。

 
コーヒーのテースティングの歴史は、まだまだ浅くこれから進化していく領域だと思います。
一般のコーヒー好きな方はあまり難しく考えないでいいと思います。
「しっかりした酸とコクがあり、甘い余韻が口に残るいいコーヒーですね」と感じられればそれで十分だと思います。

 

 

最近は、何かとコメントしたがるプロが多くいますので、あまり惑わされないようにしてください。
2000年に出版した「コーヒーのテースティング」(柴田書店/絶版)は、当時(スペシャルティコーヒーという言葉が日本で使用される前です)は画期的な本で業界に衝撃を与えましたが、15年たち振り返ると現在の状況がどれほど急速に進化したかがよく理解できます。

20141101_105626