パパ日記

コーヒーの酸味-1

カッピングセミナーに来る方は、香味の表現を知りたい人が増加してきていますが、コーヒーはワインに比べテースティングはかなり難しいと思います。
そもそもアラビカ種の遺伝特性の幅は狭く、香味に差は出にくいのがコーヒーともいえます。
したがって、テロワールの優れた生産地で、品質が良くかなり優れたコーヒー出なければ香味の特徴を捉えることは困難です。

 

 

1990年にこの仕事を始めたとき、コーヒーの酸を柑橘の果実の酸と表現したコーヒー関係者はほぼいませんでした。コーヒーは酸と苦みの飲み物でしたが、主には苦みに特徴があり砂糖を入れて飲むことの多い飲み物だったからでしょう。
2000年くらいになると、スペシャルティコーヒーのムーブメントも生まれ初め、コーヒーの多様な香味に対する関心も増加し、酸の質が少しづつ問われるようになっていったと思いますが、まだコーヒーの果実感という感覚は生まれていませんでした。
2000年に出版した「コーヒーのテースティング」(柴田書店/絶版)では、コーヒーを果実という感覚ではテースティングしていませんでした。そのような香味のコーヒーもなかったと思います。(1999年に執筆)

 

 

単一農園の豆の流通が少しづつみられるようになる2000年以降に華やかな香味のものが例外的にみられるようになります。タンザニアのモンデュールの99-00、00-01クロップの香味などは今のケニアに通じる華やかさでした。カルモなの99-00なども明確な酸がありました。
しかし、このような香味をどのように表現すればよいのか?については、世界中のコーヒー関係者はまだわからなかった時代ともいえます。
むしろ酸は「酸っぱい」と嫌われるような存在で、日本では酸の少ないブルマンやブラジルなどのコーヒーに需要がありました。
ケニアのような明確な酸のあるコーヒーは日本に輸入されることがあまりに少ないコーヒーであった訳です。

 
この時代にモンデュールのような華やかな酸を含むコーヒーの香味は衝撃というか、世界中が未体験の香味であったはずです。ごくわずかですが、高地産のテロワールのよい在来種が流通するようになり、コーヒーの酸が柑橘の果実のような酸味であることがわかり始めていったと思います。
そして、2004年にパナマのゲイシャがデビューしたとき、それを体験したごく少数のコーヒー関係者はその果実感に衝撃を受けました。
この華やかさの衝撃は、コーヒーの酸という味に対する認識を一変させた大きな出来事だったと思います。

つづく