パパ日記

インディーズと自家焙煎店-1

過去1990年代、2000年代とその都度、自家焙煎店については季刊誌「珈琲と文化」に書いてきました。それらは、時代の変化の中でそれなりのムーブメントと呼べるような動きともいえますので、コーヒー店の歴史的なデータとして参照ください。

 

 

しかし、そもそも「自家焙煎店とは何か?」についての定義は曖昧ですのでそのあたりから個人的見解を含めて解説します。
私がこの仕事を始めたのは1990年ですが、当時は「ランブル」、「バッハ」、「モカ」(閉店)の3店が御三家と言われ、メディアに頻繁に登場していました。
店の中に焙煎機があり、生豆を焙煎し自店の店のコーヒーを提供する店が自家焙煎店と称されていました。もちろんコーヒー好きにコーヒー豆の販売していました。
この時期は、東京都内にも小規模のロースターも多く,一部は店頭でコーヒー豆の販売もしていました。
残念ですがこれら小ロースターの多くは、喫茶店の衰退とともになくなってしまいました。

 

 

 

当時ロースターとは、主に喫茶店などにコーヒー豆を卸売りする業務を基本としていました。
コーヒー以外にも様々な食材をデリバリーする業態でした。
日本におけるロースターの構成は、UCCやキーコーヒーに代表される大手、それ以外の中小300~400社程度により構成されていました。
したがって、自家焙煎店とロースターは基本的には異なりました。

 

 

 

当時の自家焙煎店は、ロースターのコーヒーに対し、鮮度をもって対抗する業態ともいえました。また、あくまで自店内で飲むコーヒー用に焙煎するということが基本でした。
店舗数はまだまだ少ない時代でした。

 

 
これらの店を第1期とすると、堀口珈琲は第2期と呼ぶことができるかもしれませんが、
私は過去一度も自家焙煎という言葉は使用したことがありません。
したがって、1990年以前に焙煎を始めた方々は先駆者と呼んだ方が良いかもしれません。

 

 
私は、一般家庭にコーヒー豆を提供し消費者に新しい感動を提供したいということで開業しましたし、さらには業務用のコーヒーとしての卸売りも同時に初めていますので、基本的にはロースターという業態でスタートしています。
しかし、当時ロースターといっても理解できる消費者はおりませんでしたので、豆を売る店として「ビーンズショップ」といういい方をしました。
 

 

自家焙煎店との違いをより明確としたいと考えたからで、このようないい方は極めて珍しかったと思います。
家庭用の市場にコーヒー豆を販売するという業態は当時としては、新しい業態でしたので、第1期(世代)といった方が良いかもしれません。
現在では、家庭用そして業務用で多くのコーヒーを焙煎して扱っていますので「ロースター」といっています。

 

 
1991年のバブルの崩壊以降、1990年代は喫茶不毛の時代で、東京23区に喫茶店の開業は少ない時代でした。
この不況、低成長時代を経て、2000年になると、さまざまな要因(たくさんありすぎるのでここでの解説は省略します、カフェについては朝日カルチャーでも少し説明しています)によりカフェと自家焙煎ブームが訪れます。
時代は、抽出方法を議論する時代から焙煎方法への興味、挑戦の時代に入った訳です。

しかし、私はすべに焙煎は経験しましたので、焙煎よりも生豆の品質に目を向けました。
米国でも時を同じくしてスペシャルティコーヒーという概念の基に、コーヒーの生豆に対する関心が増しつつある時代でした。

 

このあたりから、自家焙煎店を開業したのが、第二期(世代)といえるかもしれません。
「コーヒーのテースティング」は未完成な本(当時としてわかる範囲で書いたもの)でしたが、この本に影響を受けた人たちが次々に自家焙煎店を開業していきました。
LCFの初期のメンバーの多くが含まれています。

 

 
2000年代は、自家焙煎店の時代で、小型焙煎機(3K.5Kを中心)が年間200台(正確な数字のデータは存在しない為推測)以上出荷されていますので、この10年で2000店を超える店が誕生しています。
2005年前後に誕生した店の中には、スペシャルティコーヒーに影響を受けている店も多く、米国の2000年以降のサードウエーブと同じような動きであったということができるでしょう。

 

 
生豆の品質に着目し、地域社会と密着したコーヒー店でありながら、基本としては豆を販売していこうとするムーブメントです。(日本では豆のみを販売する店も多くありますのでその業態区分も過去に書いています。)
米国では、自店に焙煎機をおいて豆を販売する店はマイクロロースターといわれ、ポートランドには50店以上ありますし、スターバックスの牙城であるシアトルにも多くあります。

 

 

 

2010年前後には、日本のメディアが米国のサードウエーブという言葉を使用し初め、それらの店が紹介されていきます。
これは、日本でもスペシャルティコーヒーが、徐々に浸透した結果でしょう。
10年遅れで日本のメディアが紹介した言葉の響きは、多くの関心を集めコーヒーの焙煎に興味を持つ一群を生み出しています。

 

 
このようないい方はいいかどうか迷いますが、これらを第3期(世代)の動きと感じています。
自家焙煎という業態は、だれでもできそうに思ってしまうのですが、コーヒー豆を売ることはそんなに簡単ではなく、ビジネスと成功させることのできる人はごく一握りです。
多くは零細です。
メディアの紹介により、一部の成功事例が表に出てきますが、基本的には、すし屋をやるのと同じ程度のスキルが問われますし、その他コミュニケーション能力、企画力などスーパーマンのような多様な能力が問われます。
したがって、入念な準備が必要な業種となります。

 

 

しかし、このようなことは、体験してみなければわからないことですが、2010年以降はバリスタ選手権、エスプレッソに影響を受けた若い人も含め開業が続きます。

 

 
ただし、このような状況下、自家焙煎店の難しさの認識や、開業資金の不足、自信のなさなどが相まって、新しい傾向も生み出しています。
実際の専業以外に「ためしにやってみる」という試みが増えているように感じています。

 

 
スペシャルティの生豆の流通は増え、入手も簡単となり、小さな焙煎機を買えばだれでも豆を焙煎し売ることができる時代になったといえるからでしょう。
自宅の空きスペースなどを活用し、1K焙煎機やディスカバリーなどの小さな焙煎機で焙煎し、HPを作り、豆を販売するなどの動きが目立つように思います。
これは、焼き菓子などをネットで販売しているような動きと同じですね。

 

 
生豆の解説は生豆取扱い商社や問屋のHPから抜き出せばよいので誰でもできてしまうわけです。
このようなHPは様々な無料のサイトで簡単にできてしまいますので、コストもかからず、「だれでも簡単」に参入できるでしょう。
HPでは、店があるのか?どのようなスキルがあるのか?などは消費者にはわからない状態といえます。

 

 

このような形でも、少しずつ力を付け、小さな店の開業に向かえればいいのでしょうが、それには、きちんしたカッピングの勉強などやらなければならないことは多くあります。
そのあたりが、成功するか否か?の境目となるでしょう。

 

私は、店を持たないこれらの店をインディーズとか自家焙煎店予備軍とかでとらえています。
「コーヒーが好き?だから自分も焙煎したい。それが売れればなお楽しい。」
趣味でやることと仕事でやることは、消費者への責任をも含め大きく異なるのですが、今の時代はアマチュアとプロの境界も曖昧な時代ともいえます。

 

 

既存の自家焙煎のプロたちは、より自店のコンセプトを明確にしつつ、日々勉強していく努力を怠らないようにしなければならないでしょう。