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あの人の仕事紹介 / 製造部:秦 はる香〈前編〉

あの人の仕事紹介 / 製造部:秦 はる香〈前編〉

 
 
堀口珈琲といえば、ブレンド。

 
 
2013年にリブランディングした堀口珈琲は、それまで30種近くあったブレンドを見直し、定番のブレンドを9種類に集約しました。そして2021年8月21日。定番ブレンドは“CLASSICシリーズ”として新たに生まれ変わりました。
 
“CLASSICシリーズ”は作り続けることを基本としつつ、ブレンドならではのおいしさを追求しています。各銘柄にはコンセプトがあり、その味わいを常に一定の範囲で維持するために、素材の配合は柔軟に変わります。ほかにも、季節商品の“SEASONALS”や、特別商品の“FANTASIA”というブレンドシリーズがあります。
 
これらのブレンドを創作するのが “ブレンダー” です。堀口珈琲ならではの味わいを生み出すうえで要の役割を果たしています。今回はその主任を務める秦(しん)に、ブレンダーという仕事についてインタビューしました。聞き手はブランディング部・広報担当の中川です。
 
 
2013年入社 製造部 主任ブレンダー
秦 はる香
 
 

 
 

〈 ブレンダーという仕事 〉
 
 
――ネットショップなどで度々、名前が登場するのでご存知の方も多いかと思いますが、今回は秦さん大解剖!といった内容で色々質問していきます。どうぞ肩の力を抜いて、リラックスしながらお答えください。まず、改めて、堀口珈琲の主任ブレンダーとは?
 
よろしくお願いします。端的にいうと、ロースタリーでつくるコーヒーの味づくりに関する業務全般を担っています。感覚としてはロースタリーの「品質管理者」でしょうか。コーヒーに対してコメントを求められたり、これは商品として出荷してよいのかどうかをジャッジしたり。業務としては、生豆在庫の状態と相談しながら“CLASICシリーズ”の調製、“SEASONALS”や“FANTASIA”の創作、コーヒーの官能評価を文章化することをメインにやっています。
 
――ブレンダーがいなければ堀口珈琲の安定した味づくりは保証されないですよね。では日々の業務ルーティーンについても教えてください。
 
平常時は、午前中に焙煎や選別などの製造の仕事を行って、午後から焙煎したコーヒー豆の味チェックを行なっています。当社では扱うコーヒーの種類が多く、ざっと30〜40種ほどのコーヒーの味を毎日必ず確認し、記録しています。さらに、確認した人と別の人が、お客様が実際に召し上がるタイミングに合わせ「焙煎から7日後」を目安に再度、味の確認を行なっています。
 
――毎日の味チェックはなかなか大変だと思うのですが、「毎日」やるポイントってなんでしょうか?
 
まず、気温や湿度などの外的要因によって焙煎機の中の様子は毎日変化しています。できるだけベストな焙煎をするためには、その微妙な変化に対してアプローチが合っていたかを確認する必要があるからです。また、毎日、焙煎したコーヒーの味を確認していると、生豆の状態の微妙な変化に気付くこともできるんですよね。
 
 

 
 
〈 主任ブレンダーに求められること 〉
 
 
――先ほどの業務内容にもありますが、ブレンダーって味わいを言語化することを求められる仕事ですよね。味覚が優れているだけではなれない仕事なんだな、と常々感じます。
 
そうですね。ブレンダーの仕事は、まずは正しくコーヒーの風味を理解できる「カッピングスキル」があることが大切ですが、それをアウトプットすること、人にしっかり伝えるスキルも重要です。
 
――自分が感じた味わいをどのように表現するのか、これはある程度、表現するスキルがないと難しいですね。
 

ブレンダーになる前からこの辺は鍛えられていたかと思います。堀口珈琲では、さまざまなコーヒーを飲み、一つひとつの味を「どう感じたか」と口に出すことを習慣化しています。その味わいに対して意見を求められるので「私はこう思う」など意見を伝える訓練はやっていましたね。
 
――たしかに。当社は入社したらとにかくいろんな種類のコーヒーを飲んで、それが合っているかいないかは別として、そのコーヒーでどんな味わいを感じたかを伝えることが求められますよね。
 
これは私の考えなんですけど、人の感じる味わいに正解・不正解ってないと思うんですよね。他の人が感じたのと違っていたからダメってことではない。でも、感じた味わいを伝えなければ言葉の齟齬が起きてしまうから、ある程度いろんな人の意見を聞いて、自分の感じたこととすり合わせていって、みんなに伝わるような言葉にしていくことが大切だと思っています。
 
――「感覚のすり合わせ」、具体的にどんなことを行なっていますか?
 
例えば、同じコーヒーを飲んで「軽い」という単語しか出てこなかった人がいたとき「質感が弱い」のか「香りが弱い」のか、はたまた「余韻が短い」のか。何をもって「軽い」と表現しているのかを一緒に飲んで細分化していくような作業をします。
 
――なるほど。日々の業務中になかなか複雑なコミュニケーションをとっているんですね。他にはどんなことが堀口珈琲のブレンダーとして大切ですか?
 
食事を楽しむこと。そして堀口珈琲が好きであること(笑)。あと、実際に店舗にも客として行くことが大切ですかね。喫茶でコーヒーを飲みながら、お客様がどのように感じているのか、お客様がどんなことを求めているのかを“感じる”ことも大切かなと思います。
 
――自分がつくりたい味をつくる、ではなく、その先のお客様がどのような反応をしてくれているかを感じ取る。
 
お客様の目線は常に自分の中にも持つようにしています。あと店舗のスタッフにとっても、堀口珈琲の味をつくっているのがどんな人なのかよくわからないっていうのは嫌ですよね。
 
――ただでさえ横浜ロースタリーは店舗と離れているので普段なかなか会えないですしね。というわけで、店舗のスタッフは、秦さんが店舗へ行った際には積極的に話しましょう(笑)。
 
 

〈 コーヒーの仕事に就こうと思ったきっかけ 〉
 
 

――少し、秦さんのパーソナルな部分を聞いていきたいと思います。コーヒーを仕事にしようと思ったきっかけはなんですか?
 
もともと両親がコーヒーを好きで、小さい時から喫茶店に行っていました。高校卒業後、調理の専門学校に通っていた時に、福岡にあるコーヒースタンドに入り浸るようになり、スタッフとも仲良くなって、いつのまにか働くことになっていました。だから18の時からコーヒーの仕事を始めたことになりますね。
 
――幼いころから日常的にコーヒーに触れてきていたんですね。調理の専門学校ということは、食べることにも興味があったのでしょうか?
 
そうですね。食べることにはすごく興味があって、作ること自体も好きでした。いつか自分の店を持てたらいいなぁと思うようになって、いろんなことができるっていったらコーヒー屋かなぁと。調理の専門学校に行ったのも店をつくりたいという気持ちが強かったからです。
 
――自分の店を作りたいという想いが最初からあったんですね。そのコーヒーショップではどのぐらい働いていたんですか?
 
3年ぐらい働いて、そのあとはデンマークへ短期留学しました。もともと、当時というか今もですけど、北欧は生活とコーヒーがすごく密接している印象があって。一人当たりのコーヒー消費量が多い国の、日常的に飲まれるコーヒーは一体どんなものなのだろうという興味がありました。当時、デンマークにはバリスタチャンピオンがいるコーヒー屋もたくさんあったので、暮らしてみたいと次第に思うようになりました。
 
――デンマークではどんな暮らしをしていましたか?
 
寮生活ができる学校をみつけ、デンマーク人とルームシェアしていました。日本文化がすごく好きな人で、彼女とは今も連絡を取り合っています。
 
 

 
 
〈 デンマークで気付いたこと 〉
 
 

――生活の中にコーヒーが密接しているというお話でしたが、実際に一緒に暮らしているみなさんは日常的にコーヒーを楽しんでいましたか?
 
コーヒーだけでなく紅茶も沢山飲まれていました。想像はしていましたが、日本でいうお茶のような感覚なんでしょうね。寮には大きなポットが置いてあって、中にコーヒーや紅茶が常に用意されている環境でした。でも消費量が多いからといって、味が特別にいいわけではないんだなと気付かされました。
 
――味に対するこだわりが思っていたよりなかったのでしょうか?
 
日本でお茶に特別こだわって飲む人が少ないのと同じかもしれませんね。でもたまに都会に行った時に自分がおいしいと思う店でコーヒー豆を買ってきて寮でコーヒーを淹れると、「なにこれ、すごくおいしい」って反応してくれる人もいて。だから、おいしいコーヒーは、国籍問わずわかってくれる人はわかってくれるんだっていう気付きはありました。
 
――なるほど。その後は寮生活を終えて、日本に帰国してすぐにコーヒー屋で働き始めたのですか?
 
そうですね。留学での一番の気付きは、やっぱりコーヒーを仕事にしたいと感じたことですね。誰かの生活をコーヒーで変えたい、というよりは「もっとおいしいコーヒーあるよ」って共有することが楽しいって改めて気付きました。それは寮生活でもやっていたことだし、実際おもしろいと思っていました。
 
――なるほど……。おいしいコーヒーがあることを知ってほしいということですね。その気持ちをもって日本に帰国し、堀口珈琲で働き始めるのですね。
 
 
〈 堀口珈琲との出会い 〉
 
 
――留学から戻ってきて、すぐにコーヒー屋で働こうと思ったのですか?
 
帰ってきてからは、自分がおいしいと思えるコーヒー屋で働こうと思って、片っ端からいろんなコーヒー豆を取り寄せて飲んでいました。その中で堀口珈琲を改めて飲んで、こりゃすごい、ここで働きたい、と門を叩きました。
 
――入社してすぐは狛江店に配属。その場での働きはどうでしたか?
 
最初は喫茶や店頭から始まって、それから製造の仕事に入って。当時は本当にきつかったです。仲間たちのプロ意識に圧倒される毎日でした。求められることも覚えることも多くて、とにかく必死でした。3年〜4年目で上原店に異動になって焙煎を本格的に始めましたが、もともと焙煎をやりたかったのですごく嬉しかったことを覚えています。
 
 
 

 
秦 はる香
2013年に堀口珈琲入社。2017年に上原店へ異動、焙煎を学ぶ。
その後、狛江店で焙煎を担当し、2019年に横浜ロースタリー製造部へ。
2020年より主任ブレンダーを務める。
 
製造部の”眼鏡の人”。
書籍から関連書籍へ掘っていくような、芋づる式の読書が趣味。
その他は、散歩、音楽、お酒、朝のラジオが好き。
 
 
 


 
今回は堀口珈琲のブレンダーの仕事内容を紹介してもらいました。秦についてはご存知の方も多いと思うので、今回は普段なかなかお伝えできない部分を深掘りしてみました。
 
もしかしたらこの記事を読んでいる方の中にも、コーヒーの仕事に就いてみたいと考えている方がいらっしゃるかもしれませんね。この記事を読んで、何かヒントを見つけられると嬉しいです。
 
後編では秦が考える「堀口珈琲のブレンドづくり」について聞いていきます。
 
後編はこちらからどうぞ。
 
ブランディング部・広報 中川