たのしいコーヒー

堀口俊英、パパブレンドについて語る

堀口俊英、パパブレンドについて語る

目次

1 パパブレンド2023の出発点
2 素材選定のポイント
3 パパブレンドの遊び心

 

2023年、3年ぶりの販売となった「PAPA’S BLEND(パパブレンド)」。
創業者堀口俊英(現会長)が独自のアプローチで取り組む自由なブレンドで、販売が不定期ということもあり販売直後から大好評をいただいております。

堀口本人によるブレンド解説やブレンド制作の過程に密着した記事をすでに公開しておりますが、今回は「そもそもなぜ深煎り(フレンチロースト)なのか」や「ブレンドの素材をどう捉えるか」を中心にインタビューしてきましたのでご紹介します。

横浜ロースタリーで焙煎・ブレンドを担当する秦とパパブレンドの企画担当である島崎が堀口のもとを訪ねました。これまでの記事では明かされなかった新しい切り口の話題も盛りだくさんです。

ぜひお手元にパパブレンドのコーヒーをご用意の上、ご覧ください。

 

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■『堀口俊英によるパパブレンド解説』
https://kohikobo.com/shopdetail/000000001220/(オンラインストア)

■『PAPA’S BLEND 2023 ~制作の裏側~』
https://www.kohikobo.co.jp/channel/18927/(HORIGUCHI COFFEE チャンネル)
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1 パパブレンド2023の出発点


 

島崎)
今回のパパブレンドは上品さとガッツ、双方を兼ね備えた味わいになりました。どんな構想からこのコンセプトが生まれたのでしょうか?

堀口)
基本的にはフレンチロースト(深煎り)を作りたかった、というところからなんだよね。
だから、まずフレンチローストって何?というところから始まる。

そもそも焙煎度が8段階あるっていうのは、現状で日本くらい。
30年前はほとんどがミディアムローストだったから、逆に言うとここ2、30年で一気にバリエーションが増えた。

その増えた理由っていうのは、第一に生豆の品質が向上したから。それに対して多様な焙煎をしようっていう流れがある。ただ、一般的にはそれほど幅広い焙煎をしているロースターは少ない。そういう意味ではうちは例外的な存在だね。特に深い焙煎に関しては。

アメリカでも一部のロースター(スターバックス等)以外ほとんど深煎りはやってない。全体的には浅い焙煎がメイン。ヨーロッパでもそう。現状深い焙煎のコーヒーはほとんど見られないね。イタリア行ってもイタリアンローストは見当たらないし、フランスに行ってもフレンチローストにはなかなか出会えない。

だから僕が創業した時は、深煎りのコーヒーを作りたくてこの仕事を始めた。だからフレンチロースト(深煎り)が基本になると思ってる。

 

※8段階の焙煎・・・ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアン

 

じゃあそのフレンチローストって何?っていうと実は難しい。

焙煎でいえば、2回目のハゼがあって、ピークから終わりくらい。でもそれは焙煎機によっても違う。だから味でみる。つまり、焦げのニュアンスが入らないくらい。焦げのニュアンスが支配的になると、もうイタリアンの領域に入っちゃう。

これは僕の考えで、他の人は違うかもしれない。色々なコーヒーを飲んでみて、焦げっぽい味が入っていてもフレンチとしているものもある。ただ僕はそれが嫌だった。焦げは入らない、入ってもほんのちょっと、それがフレンチローストだと考えている。

 

※ハゼ・・・焙煎によって豆内部の内圧が上昇した結果、コーヒー豆の一部が音を立てて破裂する現象

 

 

 

素材と焙煎の重要性

 

じゃあこのフレンチローストをやるにあたって、どんな豆でもいいの?っていうと、そういうわけじゃない。

生豆の質が問われちゃうわけだ。
つまり、密度が高くて成分値が複雑で、深い焙煎にも耐えられる生豆じゃないといけない。
素材が大切。そして、それをちゃんと焙煎できる技術。

ここの部分が一般的に確立されていないので、焦げたコーヒーが出回っちゃう。
だから、良いフレンチローストってものが世の中に少ない。

焦げてなくて、煙っぽくなくて、かすかに酸味を感じて、濃厚な液体。
この良いフレンチローストが、僕の考えるコーヒーの王道。

これがベースにあるから、パパブレンドはフレンチローストにしようって思った。

そこに、遊びを加えるためにイタリアンの豆を少し入れてみた、という感じ。

 

抽出の重要性

 

生豆の品質、それを適切に焙煎できるスキル、それに加えて、抽出が大切。
この「抽出」も今回のパパブレンドではとっても重要だと思ってる。

フレンチローストのコーヒーって、飲む時の濃度がポイントになる。
濃度っていうのは、前提としてはみなさんの好き好きなんだけど、ある程度の濃度で楽しまないとフレンチローストにする意味がなくなっちゃう。
そのために抽出が大切。
このパパブレンドの深煎りの醍醐味を味わってもらうためには「1人分25gで120mlを2分30秒で抽出する」ことを推奨している。

もちろん薄く淹れてもいいんだけど、やっぱり本質は濃く淹れる抽出。

 

 

 

 

 

2 素材選定のポイント


 

島崎)
味わいの方向性が定まり、たくさんの選択肢から素材を選ぶ時、どんなことを意識しましたか?

堀口)
まずは、基本的に標高。
標高の高い農地をみていく。

だからナリーニョとか、コスタリカとか、ペルーとか。
標高が高いとコーヒーに含まれる酸とか脂質量が多くなる傾向がある。
もちろん、緯度と標高の関係があるから高ければいいわけではないけどね。言い換えれば寒暖差がしっかりある環境で栽培されたかどうか。

 

※ナリーニョ・・・コロンビア南部の県

 

もうひとつは入港時期。

基本的に去年の10月以降に入ってきたものから選んだ。いわゆる入港間もないニュークロップ。
だから今の時期だと南米中心になったね。

まぁ、ただ。極論を言ってしまえば、今のうちの豆ならなんでもいいんだよ。(笑)
どれにしようかなで数種類選んで、テイスティングして配合を決めてもいい。
品質が高いコーヒーばかりだから。

たださっきも言ったとおり、深煎りの王道路線をいくなら豆の選定ポイントはこのあたりになってくる。
加えて、今回は個性的なコーヒーは避けてる。

 

 

秦)
品種は意識しなかったですか?

堀口)
品種はあまり意識してないね。基本はやっぱり味だから。最終的にその味がどうか、ということだから品種から入ることはしなかった。

島崎)
最終的にティピカとブルボンというマスターが長年大切にしてきた品種を採用されていたので、最初から使いたいという意図があったのかなと思いました。

 

※マスター・・・社員、スタッフからの呼び方

 

堀口)
カトゥーラのコーヒーも良かったんだよ。最終候補にも残してた。ただ、今回作りたい方向性の味わいをイメージした時に、最終的にティピカとブルボンという判断を下した。もう少しカチッとした印象にしたいと思ったらカトゥーラっていう選択をしていたかも。

あと、味わいに複雑さを出すにはやっぱりフェスパのブルボンがよかったね。

同じティピカでもナリーニョ(クンブレ農園)じゃなくてフェスパを使うと上品になりすぎる印象があった。
こんな感じで、最終的に作りたい味を目指すわけだから、品種から入ることはしなかったね。

島崎)
秦さんはブレンドの素材を考える時に、どんなポイントを気にしますか?

秦)
私は結構品種を気にするかもしれない。ただ、今マスターの話を聞いていて思ったのが、堀口珈琲が現在扱っているコーヒーは高標高なものがほとんどで、入港してから1年以内の新鮮なものばかり。ある意味、品種しか気にしなくていい贅沢な環境にいたのかな、と。(笑)

堀口)
そうだね。だから、本当に何でもよかったんだけど、今回のコンセプトを目指すために意識した順番でいうと、標高(寒暖差)、入港時期、品種、かな。

 

 

 

3 パパブレンドの遊び心


 

島崎)
コンセプトと配合が決まったパパブレンドですが、実際に横浜ロースタリーで焙煎・ブレンドするのは秦さんです。飲んでみての印象はどうでしたか?

秦)
まさにコンセプトどおりの味わいに仕上がっているなという印象です。抽出も色々な方法で試したんですが、どれもまとまっていて、濃度を出して楽しんでもらいたいというのはあるけれど、どんな淹れ方でもおいしくはいると思う。

そのバランスの良さっていうのは、使っている豆が南米のティピカとブルボンで揃っているのと、抽出効率に差がなさそうなメンバーだから、というのがあるかもしれない。
だから味がばらけないのかなと。

島崎)
イタリアンを少し入れていることについてはどう感じましたか?

秦)
この部分にマスターの遊び心を感じました。
全体としては品が良くてとてもまとまっているんですが、イタリアンが入ることでそれだけでは終わらない楽しさがあります。

堀口)
どうしても品が良くなっちゃうんだよ。(笑)
だからその品を少し壊したくなっちゃったわけ。そのためにイタリアンを3割。2割だとちょっと物足りなかった。

 

 

焙煎度で遊ぶ

 

島崎)
焙煎度で遊ぶという構想は以前秦さんもいつかやりたいって仰っていましたが、先にマスターにやられてしまいましたね。

秦)
そうですね。(笑)
フレンチ料理の世界に「デクリネゾン」というものがあって、それは同じ食材を異なった調理法で作って組み合わせるような手法なんですが、そこから着想を得ました。コーヒーでも同じ豆のみを使って、焙煎度だけでグラデーションを付けてブレンドしたら面白いかもって。

堀口)
それは面白いだろうね。

秦)
ただ、異なる焙煎度を組み合わせるわけなので、抽出スキルが必要になると思う。シティローストとフレンチローストのブレンドは、どんなレシピで淹れたらいいの?みたいな。だから焙煎度と組み合わせとレシピには気を使うと思う。

堀口)
基本的に豆が1種類あればブレンドは創れる。
ただ、焙煎度が離れすぎてしまうと難しいと思う。ハイとイタリアン、とかね。
これでは味が壊れちゃう。

島崎)
同一銘柄複数焙煎度の特別ブレンド、いつか飲んでみたいですね。
秦さん、よろしくお願いします。

 

PAPA’S BLEND 2023 フレンチロースト 200g