目次
1 3年ぶりの販売 創業者堀口俊英による期間限定の特別ブレンド
2 パパブレンド制作の裏側
-2-1 素材選び
-2-2 焙煎とテイスティング ①
-2-3 焙煎とテイスティング ②
-2-4 ブレンド完成
1 3年ぶりの販売 創業者堀口俊英による期間限定の特別ブレンド
こんにちは。
オンラインストア兼商品企画担当の島崎です。
突然ですが、皆様はご存知でしょうか。
堀口珈琲には数年に一度登場する特別なブレンドが存在します。
#1~#9のCLASSICとも、季節限定のSEASONALSとも異なるシリーズ、
『FANTASIA』
そのひとつに位置付けられるのが、創業者堀口俊英(現会長)が独自のアプローチで取り組む自由なブレンド【PAPA’S BLEND(パパブレンド)】です。
会社では第一線を退いている堀口ですが、まだまだ現役のコーヒー人。
何十年にも渡って蓄積されたコーヒーの知識と経験、そして即興的なインスピレーションを総動員してこのブレンドを創り上げます。
「素材」「イメージ」「モチベーション」の三拍子が揃って初めて商品化できるブレンドと言えるでしょう。そのため、連続で登場した年もあれば、数年間販売できない時もありました。だからこそ、販売した暁にはたくさんの反響をいただく貴重な存在になっています。
2023年、PAPA’S BLENDを3年ぶりにお届けします。
その制作の裏側に密着しました。
島崎視点でレポートします。どうぞ、ご覧ください。
2 パパブレンド制作の裏側
2022年の年末、商品企画の会議中にひとつの提案が上がりました。
「来年はパパブレンド、どうかな」
最後に販売したのはもう数年前。
様々な理由で販売できていなかったパパブレンドですが、2023年は見通しが立ちそうだということで商品化の機運が一気に高まりました。
さっそく堀口本人に提案したところ、
「うん、やろうか。」
と好感触。
さぁ、ここからコンセプト立案、素材選びや焙煎度の検証、ブレンド配合、多くのステップが待っています。イメージだけではブレンドはできません。
「なんとしても商品化したい」と企画担当の私は大きな期待と少しの不安を抱きながらパパブレンドの制作に乗り出しました。
2-1 素材選び
堀口珈琲のオンラインストアでは常時20種類以上のシングルオリジンをラインナップしており、これが時期によって頻繁に入れ替わります。
それは「今が旬だから!」「このコーヒーの、この時期の、この味わいを楽しんでもらいたい!」など、様々な理由がありますが、年間通して合計すると100種類以上のコーヒーをご提案することになります。
この“100”という数字も実は厳選した結果の数字なのですが、その裏側はまた別の機会に…。
ということで、「ブレンドを創る」という行為はたくさんの素材(シングルオリジン)と向き合うことから始まります。さて、この膨大な数のラインナップを目の前にして堀口はどう進んでいくのでしょうか。
4月某日
膨大といってもすべてを候補に入れることはできませんので、入港時期や在庫量、風味の傾向などから、ある程度絞った約60種類のリストを用意して堀口のもとに向かいます。(それでもすごい数です)
リストを渡し、軽く目を通す堀口。
「なんでもいいよ。」
あまりに想定外のフレーズに思わず目が点になる島崎。
「マスター、なんでもいい?とは?」
「君がいくつか素材の候補を選んで、そのなかでブレンドを創るのも面白い、ってこと。」
※マスター・・・社員、スタッフからの呼び方
なるほど。
あえて縛りを設けてそのなかで遊ぶ、ということです。
堀口らしいアプローチではありますが、今回は数年ぶりの販売ということもあり、自由度を高く、堀口のエッセンスをふんだんに盛り込んだブレンドにしたいと考えていました。
その旨を伝えると、
「わかった。」
「うーん、ナリーニョのこの2種類、ティピカとカトゥーラは候補だね。」
「それと、ペルーのフェスパ、品種違いの3種類。」
「ちなみにこれはどんなコーヒー?標高は?」
「こっちの農園、今年の出来はどう?」
※ナリーニョ・・・コロンビア南部のエリア名。
※ティピカ、カトゥーラ・・・コーヒーの品種。
※フェスパ・・・農園名。
(なんだマスター、イメージしっかりあるじゃん!)
やはりいくつか方向性はあった様子で、素早く、そして慎重に候補となる豆を挙げていきます。
「インドネシア、ブラジル、エチオピアあたりは使わない。今回は個性的なものは避けて、王道の深煎りを目指そう。ただそれだけだと芸がないから“焙煎度”で遊んでみようか。」
こうして約60種類のシングルオリジンから9種類が素材が候補に選ばれました。
■素材候補になった9種類
コロンビア「ラ・クンブレ農園 カトゥーラ」
コロンビア「ラ・クンブレ農園 ティピカ」
コロンビア「サン・フランシスコ農園 カトゥーラ」
コスタリカ「【クレストネス】エル・アルト カトゥーラ」
コスタリカ「【ラ・ロカ】エル・アルト カトゥアイ」
ペルー「フェスパ農園 カトゥーラ」
ペルー「フェスパ農園 ティピカ」
ペルー「フェスパ農園 ブルボン」
タンザニア「ブラックバーン農園」
2-2 焙煎とテイスティング ①
翌週、選ばれた9種類の生豆を持って再び堀口のもとを訪れます。
ここからさらにラインナップを絞るため、テイスティング(官能評価)を行います。
小型のサンプル焙煎機を使って堀口自ら焙煎。
「全部ミディアムローストね。すべて同じ条件(プロファイル)で。」
1種類につき約10分、55gずつ焙煎していきます。
並行して各生豆の水分値も計測します。
いよいよ明日、最初のテイスティングです。
翌日。
堀口のもとを訪れるとすでに焙煎された豆がずらり。
さっそく計量し、粉に挽いて、お湯を注ぎます。
堀口とカッピングをする機会など、社員でも滅多にありません。少し緊張。
「ヒュッ、ヒュッ」とコーヒーをすする音が部屋に響きます。
「マスター、このカッピングではどこまで判断するんですか?」
慎重にカップを進めながら、
「主軸のコーヒーはまだ決めないつもりだけど。それぞれの特徴を把握してイメージを広げる。ここから6種類に絞って、次は実際のフレンチローストで焙煎。」
ブレンド創りには様々なアプローチがあります。
ひとつ「これだ!」と主軸を決めて全体を整えていく方法や、今回のように全体をまず俯瞰することから始める方法、豆と豆の相性から見ていく方法、など。
パズルのピースをはめていく作業が、外から埋めていく方法、特定の絵柄から進めていく方法、色々あるように。
「コロンビアのティピカは使いたいな。ペルーのカトゥーラは少しスパイシーなニュアンスが強いから外す。ブラックバーンを入れるか迷うなぁ。入れると少しパンチが効きすぎちゃうかも。」
徐々にイメージが固まっていきます。
並行して客観的な指標で判断を補完するため味覚センサーにもかけるとのこと。
最終的には5種類のコーヒーが選ばれました。
コロンビア「ラ・クンブレ農園 ティピカ」
コロンビア「サン・フランシスコ農園 カトゥーラ」
ペルー「フェスパ農園 ティピカ」
ペルー「フェスパ農園 ブルボン」
タンザニア「ブラックバーン農園」
これを上原店にある焙煎機でフレンチローストに仕上げます。
担当は熟練のロースター大瀧。
「今のところ、上品できれいな深煎りになりそうだね。イメージは“良家のお嬢様”。」
堀口らしいコメント。
「この5種を深煎りにしてどんな風味になるかを確認する。焙煎で少し遊ぶって言ったけど、それをどの豆でやるか決めたいんだよ。ひとつだけイタリアンローストにして上品だけどガッツもある深煎りにしようかな。」
方向性が固まり始め、期待に胸を膨らませながら実機焙煎のサンプルを待ちます。
2-3 焙煎とテイスティング ②
堀口からの依頼で、今回のフレンチローストの焙煎もすべて同じ条件(プロファイル)で行いました。
同じ条件というのは、釜に入った5種類の豆がすべて同じ温度変化を辿る、ということです。
さすがロースター大瀧。すべての豆をきっちり同じ条件で仕上げました。
さっそく5種のサンプルを堀口のもとへ届けます。
残念ながら私はこのテイスティングには立ち会えず。
後日堀口から「フェスパ農園のブルボン品種を深めのシティローストと深めのフレンチロースト(もしくは浅めのイタリアンロースト)に焙煎して追加で届けて欲しい。」との連絡を受けました。
どうやら“焙煎度で遊ぶ”銘柄に選ばれたのはフェスパ農園のブルボン品種だったようです。
後から理由を聞くと、
「現状、ラ・クンブレのティピカとフェスパのブルボンの評価が高い。ただ、普通にブレンドしても特徴が乏しくなっちゃう。フェスパのブルボンが鍵になると考えていて、より複雑な風味に仕上げるために、このコーヒーの焙煎度違いをお願いした。」
とのこと。
当初、ブレンドにガッツを加えるため、1種イタリアンローストに近いものを配合すると聞いていましたが、より複雑さを出すためにシティローストも加えてみたい、と。
場合によっては、シティ・フレンチ・イタリアンのブレンドが出来上がるかもしれないと聞き、いったいどんなブレンドに仕上がるのか、私の想像は膨らむばかりです。
2-4 ブレンド完成
5月某日。
追加のコーヒーを受け取った堀口から、配合の候補がいくつかできたとの連絡。
さっそく事務所に向かうと、5パターンのブレンドがテーブルに並んでいました。
配合の銘柄と比率が微妙に変えられた5種類のブレンドです。
コロンビアの2種類をベースにフェスパの焙煎度違いが異なる比率で用意されています。
抽出器具はクレバードリッパー。
いれ方によるブレをなくすため、まずはほぼ浸漬法になるクレバードリッパーを使用します。
ちょうど現場に居合わせたベテラン営業担当の小野塚と高山も参加し、試飲が始まります。
「コロンビアはティピカを使うと質感が際立つしより上品な印象になるね。」
「イタリアンはもう少し比率を上げた方がガッツ出そう。」
「シティの配合は複雑さを感じるけど全体のバランスが……。」
様々な意見が飛び交います。
良質な、それも相性の良いコーヒーを吟味してブレンドしているので基本的に完成度の高いものでした。
ただし、どれも決め手に欠ける結果となり、この日は終了。
後日、再び別の配合を検証し最終決定する運びとなりました。
ブレンド創りはただ数種類のおいしいコーヒーを混ぜればいいわけではないことを痛感します。
細部の細部を、最後の最後までこだわってこそ堀口珈琲です。
5月16日。
ついに配合を決定する日です。
堀口のもとへ向かうとテーブルには3パターンのブレンドが並んでいました。
「パパブレンド、ほぼできたよ。」
「コロンビアのティピカが3割、フェスパのブルボンのフレンチローストが3割、フェスパのティピカが2割、フェスパのブルボンのイタリアンローストが2割。この2番の配合が一番良いかな。」
実際に試飲します。
口当たりは柔らかく、滑らかな質感とともに心地よい苦みが重層的に広がります。
香りも良く、上品な深煎り。
一方、アフターにかけて徐々にイタリアンの苦みが顔を出し、パンチの効いた飲みごたえを実感します。
「マスター、できましたね。」
約2ヶ月に及ぶブレンド創りが終了しました。
企画の立ち上げから少しずつ形になり、一杯のブレンドになりました。感無量です。
ぜひ多くの方に飲んでいただきたい。心からそう思いました。
一人で勝手に達成感を味わっていると、
「うーん、ガッツをもう一押し。やっぱりコロンビアのティピカを2割にして、イタリアンを3割にしよう。」
最後の最後の最後まで、こだわってこそ堀口珈琲です。
マスター、ありがとうございました。
堀口からのブレンド解説や楽しみ方のポイントはオンラインストアの商品ページに詳しく記載しています。
こちらも併せてぜひご覧ください。