パパ日記

ティピカの基本香味-1カリブ海の島々

テロワールと品種を重視するという考え方は、ブルゴーニュのワインの学習からきています。
ブルゴーニュはピノノワールという単一品種ですので、村や区画が変われば香味が変わるデリケートな品種であり産地となります。
生産者、区画、村、テロワール、熟成年で香味が変わりますのでテースティングのトレーニングには最も適したワインです。

 

 

 

私の場合、このような考え方はコーヒーの品種、栽培、精製などをとらえる基礎的な下地になりました。
コーヒーにおいては2000年以降トレサビリティが問われ、栽培、精製をとおして品質と香味に対する関心は増し、従来の汎用品とは異なるスペシャルティコーヒーが萌芽します。

 

 

 

日本人は欧米に比べ伝統的価値観として、一部のコーヒー関係者は、品種に対して関心を持っていたと思います。
したがって、30年前でも米国のサンフランシスコやニューヨークなどの伝統的挽き売り店と同じように原産国表示位はされていました。
ヨーロッパではあまり生産国や品種を気にするような環境は少なかったと思います。

 

 

 

この当時の日本のコーヒーは、酸が弱く飲みやすい柔らかな香味を消費者が求めましたので、日本では生産量の多いブラジルが主流となります。
また、モカ(イエメン、エチオピア)と呼ばれたコーヒーやケニアよりは酸の少ないキリマンジャロ(タンザニア)などが多く流通していました。(1990年に私が開業した時には、このキリマンやモカという曖昧な表示はせず、タンザニア、イエメン、エチオピアという表示をして販売しましたが、当時としては認知が少なく説明に苦労した記憶があります。)

 
またミィアムローストが90%以上の市場でしたので、さめると酸がよくでる豆や鮮度劣化した「酸っぱい」というコーヒーが敬遠されたものです。
そんな中でブルーマウンテン(ジャマイカ)は、香味としては酸が控えめで、中米などに比べ飲みやすかったのでしょう。価格が高い高級品としてのブランド力をもっていました。
反面、品質の低下や消費者の嗜好の変化の中で徐々に存在価値を減少させていきます。

 

 

 

現在のジャマイカを品質が良くないと切り捨てるのは簡単ですが、ティピカという品種として顧みれば、カリブ海の島々を代表する豆でしたし、キューバやドミニカ、ハイチなどとともにカリブ海のティピカの基本的な香味があったことも事実です。但し、ブルーマウンテンは、極端に特別に美化されたような豆でもあり、品質と香味に見合わない価格であることから私は取り扱いをしませんでした。

 
すでに、わたしが開業した1990年にはカリブ海の島々のティピカの生産量は激減し、その香味をきちんと確認できる環境は衰退しつつありました。
ただ、ジャマイカ以外のカリブ海のコーヒーにも関心を示したのはやはり日本人であり、多くはもう団塊の世代以上の年齢に達しているでしょう。(これはイエメンにも言えることです。)
ブルマンが高い価格で売れることに安住してきた日本のコーヒー業界の問題点も内包しているわけです。

 

 

 

とにかく、ティピカの基本の香味の認識や確認は難しい時代になったといえます。
しかし、何度もいうように、ルイ14世の頃パリの植物園からマルティニーク島に移植され、様々な島に広がったカリブ海のティピカはテースティングにとっては重要な香味となります。
これらの特徴的な香味は、やさしい穏やかな酸で甘い余韻、やや草の香り、よいものはシルキーな舌触りでしたが今は体験することが難しくなり残念です。

 

 

 

ティピカは生産量が少なく、かつさび病にも弱く、現在ジャマイカは、さび病の被害が甚大です。
収穫の回復までには数年かかると思われます。
気象変動の影響によるアラビカ種の絶滅危惧という観点から考えれば、ティピカを他の病気に強い品種に植え替えればよいという考え方も成り立ちますし、スペシャルティコーヒーの時代にジャマイカの価値は価格に見合和ないとも思います。ただ、個人的には、品種としての重要性を後世に残さねばならないという使命感ももっています。
本来は適切な価格で流通すべきと思いますが……..。不透明です。

続く