パパ日記

スペシャルティコーヒーと表示-5

日本では昔からの慣習が多く残り、全日本コーヒー公正協議会でも産地、銘柄に使用基準がつくられています。ある程度の表示義務があることは、消費者にとって有用です。
しかし、それらは従来のコーヒーを念頭に置いたもので現在のスペシャルティコーヒーという新しい概念に対応できるものではありません。

 

 

私が開業した25年前から今日に至るまで、モカ、キリマンジャロ、ブルーマウンテンブレンドなどの表示が使用されています。
協議会では、モカはモカハラー(エチオピア産ハラー地区)、モカマタリ(イエメン産のアラビカ種)と区分し例示していますが、エチオピには多くの産地やグレードがありますし、イエメンのモカマタリは単なる名称で産地を意味しません。
マタリはバニマタリ地域から取られた言葉だと推測しますが、通常のモカマタリのトレサビリティは不明です。
バニマタリは限定された地域のコーヒーで、価格が高く、世界的に見ても流通量は極めて少なく、体験していいるロースターも少ないため、簡単には消費者まで流通しません。

 

 
またキリマンジャロという表示も、タンザニアのアラビカ種(ブコバ地区は除く)であれば表示が可能となっています。
私はこの言葉の使用意味を理解できませんでしたので、開業以来タンザニアと表示しました。そのため何年もの間タンザニアって何?とお客様に質問され続けました。
今では多くの方に理解されています。

 

ブルーマウンテンは、ジャマイカのブルーマウンテン地区で生産されたコーヒーとされていますが、No1からNo3までの規格とそれよりやや規格の緩いトリエージまで含みます。
もともと取引価格の高い豆で、スペシャルティコーヒーの概念が生まれる以前に品質以上のブランドが作られた、もしくは過大な評価を受け過ぎた豆といえるでしょう。

 

私がこの仕事を始めた25年前はミディアムローストが99%の市場占有率で、堀口珈琲のようなシティやフレンチ中心の店は例外中の例外でした。
当時の中米やコロンビアのニュークロップをミディアムで焙煎すると酸が強くなり、敬遠された時代です。酸化したコーヒーも多く酸っぱいという味と混同し嫌がられた時代です。
ブルマンは酸が弱く、やや甘い後味などで飲みやすく、好まれたとも推測します。
当時はニュークロップという概念もなく、私のように新鮮な生豆を求める店は例外中の例外でした。
多くのロースターは、入港後の数か月経過し、焙煎がしやすい生豆を求めていました。
オールドビーンズなどが流行っていた時代です。

 

 

モカ、キリマン、ブルマンが当時のコーヒーの中心的な豆であった訳です。

 

 

 

一般的にはコマーシャルコーヒーは、生産国名及び輸出規格等により表示されます。
輸出規格のよいものであれば、コロンビアならスプレモ、グァテマラであればSHBまでは表示します。当時はこれらの輸出規格が品質の良さを意味していました。
それ以下の規格コロンビアエクセルソ(粒が小さめ)、グァテマラSH(標高がひくくなる)、マンデリンG-3、エチオピアG-5(300g中の欠点豆が多くなる)などの場合は、当然細かな表示は避けてマンデリン、モカ(エチオピア産)など国名表示になることが多くなります。

 

 

トレサビリティを明確にできるスペシャルティコーヒーであれば、コロンビア・ナリーニョ県OO農園、グァテマラ・アンティグア地方OO農園、マンデリン・リントン地区G-1(グレード1)、エチオピア・イルガチェフェG-1などと、産地名やグレードも表示することが多くなります。

 

 

 

スペシャルティコーヒーのシングルオリジンであれば、産地、農園、標高、精製、乾燥方法、輸送方法等情報量が多くなりますので、最終的に消費者には選択しやすい表示となりますし、かつ香味を判断していける手がかりにもなります。

 

 

 
コマーシャルコーヒーの表示は、そこから品質を読み取ることはできませんが、協議会による基準である程度のコンセンサスが形成されています。
反面、スペシャルティコーヒーの品質表示は、情報がコピー&ペーストされる傾向が強くなり、その過程で販売者がきちんとそれらを理解していない状態をも生み出していると考えます。単に情報を添付して、「はいこれがスペシャルティコーヒーです」という曖昧なマーケットも生み出しているように感じます。