パパ日記

コーヒーはフルーツです?か?

「コーヒーはフルーツです」といわれるようになりました。
というか、そのようにいう人が増えました。
特に2000年前後に開業した米国のサードウエーブに影響を受けて開業した米国のマイクロロースターや最近の日本の自家焙煎店に多いように感じます。
確かにコーヒーチェリーの果肉はやや甘く、その種に果実のような香味が感じられるのは理解できます。それらは優れたコーヒーの特徴的な香味の一つです。

 

 

 

このような果実感は、いつ頃からいわれ始めたのでしょう?
1990年の私の開業時は、日本及び世界的に見ても「コーヒーは果実」というような認識はほぼありませんでした。この当時では、コーヒーの酸は劣化した味の代表としてとらえられる傾向も強くありました。
当時、コーヒー関係者の中で「コーヒーの酸は柑橘の果実のような酸」といった人はほとんどいませんでした。いやモカがそうだったといわれるかもしれませんが、それは発酵に近い香味で果実のニュアンスではないと思います。

 

 

 

しかし、1990年代中盤に特徴的なコーヒーであるエチオピアのイルガチェフェのウオッシュトなどで、初めて華やかなコーヒーの果実感を体験し、2000年にはケニアやさまざまな産地のコーヒーに様々な果実感を感じることができるようになりました。
しかし、当時のイルガチェフェは、年ごとの香味の安定性に乏しく、それをブレンドに使用することは避けました。その香味が安定し始めたのはずっと後の2010年以降のことです。

 

 

 

 

しかし、よいコーヒーを何でもかんでも「コーヒーを果実」に結びつけてしまうような現状の風潮には疑義があります。
2000年中盤以降のスペシャルティコーヒーが普及し始めたころに参入した人たちにとってはコーヒーの香味はあまりに衝撃的であったのだと思います。
よいコーヒーを比較的簡単に入手できつつある中で、果実感はわかりやすい香味だったと思います。当然、カッピング対応の浅い焙煎の方が酸を理解しやすく、そのようなコーヒーを売りたいと思うことは理解できます。

 

 

 

しかし、このようなよいコーヒーの誕生とその香味の安定性の維持には消費国及び生産国の先人たちの努力の積み重ねがあったことを忘れてはならないでしょう。
このようなコーヒーが生まれるプロセスを理解せずいきなり結果にたどり着いてしまっていることは、多様な香味の存在や価値を見失う危険性をもっていると感じます。

 

 

 

 

先日開店した某店でいきなり「パイナップルの味です」といわたときには、君は完熟したパイナップルを食べたことがあるのか?いつパイナップルを食べたのか?と聞きたくなりました。
コーヒーを果実のように例え、その香味を記憶にとどめること自体はとてもよいことですが、スペシャルティコーヒーの店が増加することにより、あまりに安易なたとえも多くなってきたと感じています。
「コーヒーが果実」なら、果実を食べていなければならないと思うのですが実際に食べている人は少ないでしょう。個人的な感覚のイメージで伝えているようにしか思えません。

 

 

 

 

私は毎日、何らかの果実を食べています。

例えば、アップルマンゴーでも、宮崎は一番甘く、次に台湾、メキシコと続き、フィリピンは品種も異なり違う味となります。ストロベリーは、日本産の収穫が途切れた際にケーキ業界では米国産を使用しますが、それは日本のいちごとはかなり異なる味です。
チェリーでも、ベリーでも多くの果実は生産国毎に様々なニュアンスの味を持ちます。
また800もあるといわれる香りと同じように、味も様々なニュアンスの複合的なところもあり、できるだけ適切な言葉で表現をすべきとは思います。かなり難しいですが….。

 

 

 

 

テースティング会では、単一の言葉でも表現してもらうこともありますが、「コーヒー全体としての香味」でとらえる必要性もお伝えしています。
「しっかりした酸で、甘いアフターテーストがあるコーヒー」でも十分です。
この場合、「しっかりした」はどの程度の強弱で使用するのか?この強さであればレモンという表現を使用し、この程度であれば「オレンジ」として使用するなどは、自己の中で整理されていなければならないでしょう。
「甘い」も、どの程度の甘さなのか?蔗糖や蜂蜜などの質と強弱を明確にしておかなければなりません。しかし、これらは、欧米や日本人との間にコンセンサスはできている訳ではありませんので、様々な違和感のある言葉が独り歩きしていると感じます。

 

 
ワインであれば「熟している」というニュアンスは、ソムリエにはボルドー、ブルゴーニュ毎にそれぞれ伝わりますが、コーヒーで「酸が強い」というニュアンスを伝えるには、レモン、パッションフルーツ、アンズ、ソルダム等どのような酸の強さなのかをきちんと整理したほうが良いでしょう。

 

 

 

 

こんな風に考えると、コーヒーのテースティングをするためにはさまざまな果実をたくさん食べる必要が生じます。ですからこの活動日記にはさまざまな果実が出てくるわけです。

 

また日常でも、果実以外にさまざまな味を確認していく貪欲な姿勢が問われます。
私などは、もう高齢で味らいの数も減っていると思いますので、能力は低下しています。

 

そんなわけで、「コーヒーの香味は果実」であるということと共に「コーヒーの香味は果実ではない」ということも理解する必要もあります。
当然果実のような香味を好まない方もいます。

 

また、当然ですが、コーヒーは焙煎により香味が変わります。
焙煎が深くなれば、強い酸もかすかな酸と濃厚な香味に変わります。
勿論、初めから明確な酸のあるコーヒーのほうが、深い焙煎で複雑な香味を醸し出すことも経験上理解しています。

堀口珈琲では、コーヒーは果実のような香味以外にも様々な香味があるということを前提に様々なコーヒーの品揃えをしています。
したがって、このことを理解したうえでNo1からNo9までのブレンドを作っている訳です。