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【保存版】ナチュラル精製のコーヒーをわかりやすく解説

【保存版】ナチュラル精製のコーヒーをわかりやすく解説

コーヒーを選ぶ際、精製方法について気にされたことはありますか?

実は味わいに大きな影響を与える要素で、お好みのコーヒーに出会うためにも重要なポイントになります。

今回の主役はナチュラル精製のコーヒー。

その独特の風味は一度虜になるとなかなか忘れられない魅力を備えています。
この記事ではナチュラル精製について徹底解説したいと思います。

「精製方法」全般について詳しく知りたい方はまずはこちらの記事からご覧ください。
 >>好みのコーヒーに出会うために知っておきたい4つの精製方法と味わい

 

ナチュラルとは“コーヒー精製方法”のひとつ

ナチュラルというと「自然に優しい」「有機栽培」「人工物を使わずに作った」といったイメージがあるかと思いますが、コーヒーにおけるナチュラルとはあくまでも「ナチュラル精製で得られた」という意味しかもちません。では、そのナチュラル精製とは何なのか。詳しく見ていきましょう。

そもそもコーヒーの“精製”とは?

まずはコーヒーの“精製”についておさらいです。

 

 

上の写真は収穫したばかりのコーヒーの果実です。サクランボのような見た目からコーヒーチェリーとも呼ばれています。

 

 

コーヒーチェリーの断面写真です。一粒のコーヒーチェリーの中には、基本的に種子が二つ、向き合うように詰まっています(上の写真のクリーム色の部分)。この種子の部分がコーヒー生豆として焙煎されて商品となります。
コーヒーチェリーから種子を取り出して生豆を得るためには、果皮や果肉などの被覆物を除去し、水分を除去する(=乾燥させる)工程が必要となります。この工程がコーヒーの“精製”です。

 

“ウォッシュト”と“ナチュラル”

コーヒーの精製は、細かく分ければ様々な方法がありますが、大別すると【ウォッシュト(湿式)】と【ナチュラル(乾式)】の2つに分けられます。キーワードはコーヒーをどの状態で乾燥をさせるかです。

 

 

【ウォッシュト(湿式)精製】
コーヒーチェリーの果肉と粘質物(ミューシレージ)を除去した状態で乾燥させる方法です。機械を使って果皮や果肉を除去したのち、水を使って粘質物(ミューシレージ)を洗い流します。

 

 

 

 

【ナチュラル(乾式)精製】
コーヒーチェリーを果実のまま乾燥させる方法がナチュラル精製です。天日による乾燥が多用されますが、機械による乾燥も行われます。天日乾燥のあとに機械乾燥を行う形で両方を組み合わせた乾燥も行われます。天日乾燥だけであれば、コーヒーチェリーの乾燥には天候によって、2週間~3週間程度かかります。

乾燥された果実の被覆物を除去して、コーヒー生豆を取り出します。

 

ナチュラルは熟した果実や洋酒のような風味が特徴

 

精製方法別の味わい比較

精製工程における「どの状態で乾燥されるか」の違いが、コーヒーの味わいの違いにも表れてきます。以下は精製方法別の味わい比較表です。

(記事「好みのコーヒーに出会うために知っておきたい4つの精製方法と味わい」からの抜粋)

 

精製方法 乾燥工程/味わいの特徴
ナチュラル 果実のまま乾燥させる方法。熟したベリー系の果実、ワインやウイスキーを思わせる芳醇な味わい。
パルプトナチュラル 果肉を除去し、粘質物を残した状態で乾燥させる方法。味わいはウォッシュトとナチュラルの中間のイメージでほどよい果実の風味や甘さ。
ウォッシュト 果肉と粘質物を除去した状態で乾燥させる方法。きれいな酸やクリーンな味わい。
スマトラ式 果肉と粘質物を除去後、生乾きの状態で被覆物を除去し、種子の状態で本格的な乾燥をさせる方法。トロピカルフルーツ、ハーブ、森の湿った土などの個性的な味わい。

 

一般的な傾向でいえば、ナチュラルのコーヒーの風味は穏やかな酸味と重めで滑らかな口あたりを特徴とするのに対し、ウォッシュトは強めの酸味と軽めの口あたりを特徴とします。少し乱暴な例えですが、ワインでいえば、ナチュラルは“赤”、ウォッシュトは“白”のようにとらえていただいてもよいかもしれません。

 

ナチュラルの精製由来の風味

熟度の高い収穫と、適正な乾燥工程を経ていることが前提ですが、一般的にナチュラル精製のコーヒーは、ウォッシュト精製よりも生豆の被覆物が果肉に接した状態が長く続くことが影響して、独特の香りと味わいのあるコーヒーに仕上がる傾向にあります。例えて言うならば、ベリー系果実の熟したニュアンスや、スパイス感、時にはワインやウイスキーを思わせる芳醇さなど表現は様々です。

 

真髄は「精製由来の風味」×「豆の個性」

では、ナチュラル精製のコーヒーがすべてそのような傾向を持つかというと、そういうわけでもありません。ここがコーヒーの奥深く魅力的なところ。生産地や品種の違い、焙煎度合いなどによって実に様々な表情を見せてくれます。

上述したナチュラルの特徴をわかりやすく派手に感じていただけるものもあれば、「こんなナチュラルもあるのか!」と驚いてしまうほど上品に感じられるナチュラルもあります。それは、品種の違いやコーヒーが育つ環境の違いはもちろん、精製工程の丁寧さ、乾燥工程における日数や条件のわずかな違いなどが、繊細な味わいの違いとなって表れるためです。

ナチュラルコーヒーの神髄は、“精製由来の風味”と、本来備わっている“豆の個性”が見事に調和することで生まれる複雑なキャラクターを楽しむことです。そんなコーヒーに出会えたならきっと素敵な体験が待っていることでしょう。

 

 

工程で見るナチュラル精製

ここからは一般的なナチュラル精製の工程をみていきましょう。

【①収穫】

 

 

ウォッシュト精製と同様です。完熟したコーヒーチェリーを一粒一粒手摘みする方法や、熟度に関係なく一気にしごき落とす方法、機械で収穫する方法など様々。農園や精製設備の規模、管理者の考え方によって採用する方法は異なります。収穫期には専任のピッカーを雇うところもあります。

 

 

上の写真は収穫したばかりのチェリーの様子ですが、赤く熟したチェリーのみが選択的に収穫されている様子が伺えます。このように収穫時における熟度の均一性が質の高いナチュラル精製のコーヒーに繋がります。

 

【②異物除去】

 

 

収穫したチェリーをそのまま乾燥させるとはいうものの、草や枝などの大き目の異物はあらかじめ排除しておきます。そのために収穫したコーヒーチェリーを水に入れたり、ふるいにかけたりすることもあります。

 

【③乾燥】

 

 

アフリカンベッド(乾燥棚)やパティオ(乾燥場)、機械を使用してコーヒーチェリーを乾燥させます。乾燥方法や気候、天候にもよりますが、数日から数週間かけて行います。乾燥中は乾燥ムラが出ないよう定期的に撹拌したり、強烈な陽射しから守るため、かぶせ物をしたりします。

 

<撹拌・選別作業>

 

 

乾燥中は不良豆の除去や乾燥ムラを防止するために定期的に撹拌が行われます。

 

 

ザルに入っている豆は主に未成熟のチェリー。地道な作業ではありますが、良いコーヒーを作る上で欠かすことができません。

 

 

選別作業は女性が担うことが多いようです。一方、水路やタンクでの力仕事は男性が行っているところをよく目にします。

 

<コーヒーチェリーの保護>

 

 

高標高のエリアでは昼夜の気温差が大きく夜露が発生します。放置すると、コーヒーチェリーに悪影響を与えるため、保護するために夜間はカバーをかぶせたり、チェリーを一カ所に集めて山を作ったりします。

 

<色が変化>

 

乾燥が進むとコーヒーチェリーは赤色から紫色に変化します。この色の変化や水分値をみて適切なタイミングで引き上げます。

 

【④レスティング】

一定期間倉庫で貯蔵し、豆に残る水分のバラつきを減らして状態を安定させます。また直射日光から日陰に移すことで豆へのストレスも軽減させます。

レスティングを経て、ドライミルに運ばれ脱殻、選別工程へと進んでいきます。

 

 

シンプルな工程ゆえに大切なこと

 

 

 

 

ナチュラルのコーヒーを楽しもう ‐注目の産地を紹介‐

ナチュラルは、雨季と乾季が比較的明確に分かれていてコーヒーを乾燥させるための広い土地がある生産国や、ロブスタ(カネフォーラ)種の生豆の生産にて伝統的に採用されてきました。一方、近年では味わいの多様性を追い求めるスペシャルティコーヒー市場の拡大と共に伝統的にウォッシュトを採用していた生産国で、ナチュラルに挑戦する生産者も増えています。

ここからは、ナチュラル精製を活用して高品質なアラビカコーヒーを生産している注目の産地を紹介していきます。

 

エチオピア

 

 

伝統的にナチュラルが採用されてきたエチオピア。現在では多くのステーション(精製施設)でウォッシュトとナチュラルの両方が採用されています。エチオピアのナチュラルは取り扱っているコーヒー屋さんも比較的多く、堀口珈琲では年間を通じて長い期間販売をしています。タイミングによっては同じ産地のコーヒーで精製違いのコーヒーを楽しめるチャンスも。

 

イエメン

 

 

イエメンは伝統的な製法、品種が保持されている特殊な産地で、他では味わえない唯一無二の香味を放ちます。厳しい国内情勢により入手しづらい状況が続いていましたが、近年では素晴らしい品質のコーヒーが届いています。

 

ブラジル

 

 

世界のコーヒー市場において圧倒的な生産量を誇るコーヒー大国ブラジルも伝統的にナチュラルが採用されてきました。ブラジルでは機械収穫がメインのため、収穫時に完熟したチェリーのみを集めることが困難です。そのため、収穫後の選別が重要となってきます。現在では未熟豆の混入を解消すべく考案されたパルプトナチュラル(詳しくはこちらの記事にて説明しています)という精製方法も広く採用されています。

 

コスタリカ

 

 

伝統的にはウォッシュトの産地ですが、近年では香味の多様さを追求すべくナチュラル精製にも挑戦している生産者が増えています。高標高の厳しい環境が育んだ高い熟度ときめ細やかな乾燥管理によって仕上げられたナチュラルは、クリーンかつ糖度の高い甘みのつまったコーヒーに仕上がります。

 

同じナチュラルでも生産国や品種、乾燥工程における日数や条件のわずかな違いなどによってその香味の個性は異なります。ぜひナチュラルの多様さ、奥深さを楽しんでみてください。

 

 

まとめ

味わいに大きな影響を与える精製方法。

高品質なコーヒー生豆を得るためには、風味に悪影響を及ぼす未熟豆の混入を防ぎ、高い熟度で揃える必要があります。
どの精製方法においても完熟したコーヒーチェリーのみを収穫することが大切ですが、ナチュラルの場合は、基本的に収穫したらそのまま乾燥を始めるため、コーヒーの熟度を揃えるのが難しい傾向にあります。よって、乾燥前に外見から分かる未熟豆や異物は除去し、乾燥中も選別をすることで精度を上げていくことがより大切になってきます。

熟度の高い収穫と、適正な乾燥工程を経たナチュラルは“精製由来の風味”と、本来備わっている“豆の個性”が見事に調和し、複雑なキャラクターを楽しむことができます。その味わいは、ベリー系果実の熟したニュアンスや、スパイス感、時にはワインやウイスキーを思わせる芳醇さなど様々です。ぜひナチュラルの多様さと奥深さを体感してみてください。

 

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