'BLEND'OGRAPHY

堀口珈琲の定番「CLASSIC」シリーズの現在地

堀口珈琲の定番「CLASSIC」シリーズの現在地

「堀口珈琲の定番はなんですか?」

そうご質問をいただいたら、「CLASSICシリーズの9つのブレンドです」と答えます。

 

2013年から“堀口珈琲の定番”として走り出し、素材となるシングルオリジンの移り変わりに刺激を受けながら、今もなお変化を続けているCLASSICシリーズ。

このブレンドたちは、どのような想いから生まれ、どのような進化を重ねてきたのでしょうか。その歴史を振り返ります。

 

目次


  1. 1. 2013年 17種類から9種類へ、精鋭化されたブレンド
  2. 2. 2021年 ブレンドならではの風味とは何かを再定義
  3. 3. 2022年 風味以外のブレンド表現を考える
  4. 4. 9つのブレンド、9つのかたち
  5. 5. 誰かの定番-CLASSIC-であり続けるために

 

 

 

1. 2013年 17種類から9種類へ、精鋭化されたブレンド


 

CLASSICシリーズは2013年の堀口珈琲リブランディングを機に生まれました。

 

1990年の創業時からブレンドを作り続けてきた堀口珈琲。スペシャルティコーヒーの発展期に素材に呼応しながら次々とブレンドを生み出し続けてきたこともあって、その数は年を追うごとに増え続け、リブランディング直前の2012年ごろには通年販売するものだけでも17種にまで達していました。ブレンドに思い入れがあるといってもちょっとやりすぎでしたね。

内容もわりと無秩序で、名称だけでも「さわやかブレンド」「まろやかブレンド」といった風味のイメージを冠するものや、「こまえブレンド」「ちとふなブレンド」といった地域に寄り添ったものなど、成り立ちによって性質が違うブレンドが混在状態でした。

リブランディングに向けたミーティングではもちろん「堀口珈琲の顔となる商品ってなんだっけ?」「当然ブレンドだよね」というやりとりがなされました。その上で、こういった状況を改めて目の当たりにすると……「ブレンドやろっか」となるのは明らかです。

 

そして、結局、名称に留まらずコンセプトや風味・デザインや付随するイメージまでも、“ブレンド全体をやり直す”という一大事業に発展してしまったのです。

その最初のステップが17種のブレンドの整理です。

 

スペシャルティコーヒーの多様性を反映した多彩さがありながらも、明確に一体性のあるラインナップであること。

難しい課題です。

 

そんな中、ラインナップを整理する際に拠り所にしたこと。

それは“コーヒー屋の妄想”でした。

日々さまざまなコーヒーを口にしている私たち。自分がコーヒー屋さんに豆を買いに行くことを思い浮かべ、「どんな味わいのコーヒーが揃っていたらうれしいだろう?」「こんなコーヒー屋さんがあったらいいな」という妄想をしてみました。

そんなシンプルな妄想を経て、たどり着いたのが9つの味わいです。

 


2013年に完成した“ブレンドチャート”


 

「いつもの7番で」

「今日はちょっと冒険したいから、8番、試してみようかな」

「フルーツを使ったケーキと合わせるなら何番がいいんだろう」

お客さまとのそんなやりとりを思い浮かべながら生まれたブレンドたち。

これが、“CLASSICシリーズ”のはじまりです。

 

2. 2021年 ブレンドならではの風味とは何かを再定義


 

突然ですがブレンドとはなんでしょうか。

 

ブレンドとは、複数の素材を組み合わせたもの。もう少し詳しくお伝えすると、シングルオリジンを素材として組み合わせ、シングルオリジンではなし得ない風味を追求するものと堀口珈琲では捉えています。

ブレンドとシングルオリジン。このふたつは決して切り離して考えられるものではありません。“おいしいブレンドを、安定して作り続けること”を目指したとき、必然的にシングルオリジンの追求も熱を帯びます。

 

2000年代から2010年代前半にかけてはスペシャルティコーヒーの生産が増え、その風味の多様化も進みました。これまでにない高い品質の素材が少しずつもたらされるようになり、ブレンド作りの可能性も広がりました。堀口珈琲ではもともとブレンド作りを“足りない味わいの要素を補う”ことではなく、“特別な味わいを創造する”ことと捉えていましたが、そうしたブレンド作りがしやすい環境が整っていきました。

 

そして、2010年代後半からはさらに品質の高い生豆が登場してきます。ホンジュラス奥地でサビ病を逃れたティピカ品種やコスタリカの超高標高で栽培されたウォッシュト、高いポテンシャルにさらなる磨きをかけたエチオピアのナチュラル……。

 

こうしたすばらしいコーヒーは確かにブレンドの可能性をさらに広げてくれます。その一方で、ブレンドの存在意義を危うくもします。なぜなら、風味の完成度が単体でも十分に高いからです。

 

 

「ブレンドする意味とは何か」

 

この問いを、新世代のシングルオリジンは投げかけてきます。

2020年7月から改めてこの問いに向き合いました。導き出した答えは、ブレンドを再定義することであり、CLASSICシリーズの9つのブレンドを今考えうるベストな素材で作りきることでした。

 

そして、2021年8月21日。

“堀口珈琲の定番”は風味に磨きをかけ、次のステージへと進みました。

 

 

 

3. 2022年 風味以外のブレンド表現を考える


 

新たな風味を作りきり、ひと段落、とはいきません。

2021年のブレンドリニューアル後も風味面以外のブレンド表現の模索は続けてきました。

 

風味面以外のブレンド表現とは、新たな風味に相応しい「名称(ブレンドネーム)」、ブレンドを象徴する「アイコンと色(ブレンドカラー)」、ブレンドの風味のモチーフを配した「イメージフォト」の3つ。風味を中核とし、これら3つの表現要素が取り囲み、ブレンドをかたちづくる総体としてブレンドを表現します。

 

▼ 3つの要素の役割

ブレンドネーム

ブレンドコンセプトを表す2つのワードで構成されている。 “FRUITY(果実感)”や“BITTERSWEET(甘苦い)”のように直接的に風味を体現するものが多いが、“PROFOUND(深遠)”や“TRANQUIL(静謐)”のように抽象的に表現するものもある。

 

アイコンとブレンドカラー

文字情報を介さず、ブレンドコンセプトを体現する視覚的な要素。 アイコンはブレンドコンセプトを象徴的なモチーフに置き換え、さらにブレンドナンバーをかたちづくるもの。ブレンドカラーは風味を想起させる。

 

イメージフォト

ブレンドコンセプトを実在するモチーフで表現したもの。 アイコンやブレンドカラーと同様、文字情報を介さずにブレンドコンセプトを体現する要素。

 

 

2022年8月20日。

この3つの要素の再整理を行い、“CLASSICシリーズ”は現在考えうる完成形となりました。

 

 

4. 9つのブレンド、9つのかたち


 

CLASSICシリーズの9つのブレンドをご紹介します。

 

#1 BRIGHT & SILKY

ブライト&シルキー

おいしい酸味

酸味のないコーヒーをください。

確かに酸っぱいコーヒーは飲みにくいですよね。でも、心地よい酸味のコーヒーがあったらどうでしょう。

爽やか、さっぱり、スッキリ…。どれも素敵な表現です。

おいしい酸味コーヒーは、きれいで、かろやか。

そこにちょっとだけ複雑さが加われば特別な浅煎りになります。

 

#1のデザイン

アイコン:1の輪郭線を明瞭に引くことで爽やかさや快活さを表している。内側には小花を散りばめ、華美すぎない華やかさを表現するとともに、細い線を用いることで繊細さを演出。全体的に余白を設け、透明感も意識した。

カラー:爽やかさ・快活さを表すグリーン。そこに繊細さや華やかさ、しなやかさをもたらす白が加わり、淡く・柔らかなグリーンとなる。アイコンと相まって透明感も伝えたい。

 

 

#2 FRUITY & LUSCIOUS

フルーティー&ラシャス

コーヒーと果実

“コーヒーはフルーツです”

そんな言葉をよく耳にするようになりました。

いえ、コーヒーはコーヒーですよ、もちろん。

でも、優れたコーヒーからはさまざまなフルーツのニュアンスを感じとることができます。

せっかくなので、フルーツ感をたくさん盛り込みました。柑橘・核果・ベリーなど色々な果実を探してください。

 

#2のデザイン

アイコン:アイコン:桃・ベリー・林檎・パッションフルーツ・ピンクグレープフルーツ・洋梨などさまざまな果実を順に並べて2を型取り、果実のブレンドを表した。2の描き終わりを柑橘の断面にしているのは、飲み終わりは軽やかでありたいという想いを込めた。

カラー:アイコンモチーフの果実をギュッとまとめたら、と想像し、色の連想につなげた。ジューシーな果汁をイメージしている。

 

 

#3 MILD & HARMONIOUS

マイルド&ハーモニアス

立体感 カップ&ソーサーに用意したはずのコーヒー。

いつの間にかなくなっている。自然に、すっと飲み干している。

あ、おいしかったな、このコーヒー。

そんな風に、余韻と共に振り返ってもらえる透明感のあるコーヒー。

そして、もう一度じっくり飲んでみると、そこには立体的な風味の広がりが待っているコーヒー。

一つの理想形を目指しました。

 

#3のデザイン

アイコン:3というやわらかな曲線の数字を5本の線は五線譜を表し、ハーモニーを奏でるような風味であることを想像させる。繊細すぎず力強すぎない線で描くことで、シティローストらしい飲み心地とマイルド感も表現。

カラー:風味から連想される、温州みかんやハチミツに共通する柔らかい赤みの橙を用いた。

 

 

#4 AROMATIC & MELLOW

アロマティック&メロー

馥郁たる コーヒーは香りを楽しむもの 。

コーヒーらしさをもたらす香りに、 果実、花、スパイス……。

さまざまに香るコーヒーたちが繋がり合うと、 わかりやすく“複雑な香り”に仕上がります。

スペシャルティなブレンドは、“ふくいく”たる香り。

 

#4のデザイン

アイコン:シティローストとしては濃度が高く力強い風味を備えている様を、量感が感じられる表現と直線的なかたちの数字“4”で表した。そこに羽根飾りというやわらかで優美な衣装を同居させることで、アロマティックさや、メローな感覚を加えた。

カラー:熟成が進んでいながら、若々しくかろやかな印象も十分に感じられるブルゴーニュワインの雰囲気を表した。

 

 

#5 SMOOTH & CHOCOLATY

スムース&チョコラティ

ありそうで、なかなかない

苦すぎず、酸味も穏やか、鮮烈な香りでもない。これだけ聞くと凡庸な、おもしろみに欠けるコーヒーです。

ただ、そこに、なめらかな口あたりが加わり、ほんのりと花やバニラのような甘い香りがただよう。これだけですぐに特別なコーヒーに生まれ変わります。

簡単そうでなかなか作れない。

ありそうで、なかなか巡り会えない。

 

#5のデザイン

アイコン:全体を塗りつぶすことでチョコレートの濃密さを表し、艶やかな照りでスムースさを示している。加えて、とろりと滴り落ちそうな様子がなめらかさ・やわらかさを表現している。

カラー:ミルクチョコレートを意識したやや淡めの色調。

 

 

#6 WINEY & VELVETY

ワイニー&ベルベッティ

深煎りと果実

ワイニー。難しい言葉です。

ワインにはとめどなく奥深い世界が広がっています。素晴らしい産地・品種・作り手・ヴィンテージ。一緒くたにするなどもってのほかです。

一方で、深煎りコーヒーの複雑な味わいに果実感が加わると赤ワインのような雰囲気が表れます。

複雑さと果実味、そして口あたり。

嗜好品の共通項が垣間見えます。

 

#6のデザイン

アイコン:葡萄の実とつるで有機的にデザインし、深煎りの中の果実感・ワイン感を表した。

カラー:果実味豊かな赤ワインをイメージした紫。熟成感や深煎りのコーヒーであることを意識し、落ち着いた色調とした。

 

 

#7 BITTERSWEET & FULL-BODIED

ビタースウィート&フルボディド

おいしい深煎りの条件

深煎りは“苦味”を積極的に楽しむ飲み物です。

だから、飲みにくい苦味ではいけません。

焦げていてもいけません。

“心地よい苦味”これが絶対条件です。そこに甘みが続きます。なめらかな口あたりが続きます。苦く、甘く、コクのあるコーヒー。

堀口珈琲が作り続けていく王道のブレンドです。

 

#7のデザイン

アイコン:創業時から追求してきた深煎りらしい深煎りのおいしさ、王道の深煎りであることを示すため、あえて装飾のない7を掲げた。

カラー:透明な容器に深煎りコーヒーを注いでみるとコーヒーは赤みがかった茶色であることがわかる。深煎りの中心にいる#7にはそんな深煎りらしい色がふさわしいと考えたが、創業時から追求を続ける深煎り、王道の深煎りを目指すブレンドであることから、主役を示す色の「赤」を強調した。

 

 

#8 PROFOUND & ELEGANT

プロファウンド&エレガント

深煎りエレガンス

“華やかなコーヒー”という言葉は浅煎りの特権でしょうか。

深煎りならではの複雑な風味とともに、華やかさ・かろやかさも感じることができたら……。

もう一つの理想の深煎り像かもしれません。

調和しながら広がっていく深煎り。

発散的な、エレガントな深煎り。

新しい“深いりブレンド”がこちらです。

 

#8のデザイン

アイコン:#7に通じる「深煎りらしさ」を#7と同じで重量感で示し、相反する「華やかさ」「かろやかさ」を白抜きで表した。2つの風味イメージが表裏一体となり同居している様を無限にループするメビウスの輪をモチーフに表現した。

カラー:PROFOUND=深遠さを想像した時にイメージされたのは、空の深さや水中の深さ。光の吸収や屈折によって認知される「青」は、深さや幻想的な印象を持つ。そこに表れるさまざまな青を、やや緑の要素を含む深い青で表現した。

 

 

#9 DENSE & TRANQUIL

デンス&トランキル

より深く

闇雲にただ深く煎れば良い、というわけではありません。

限られた素材だけが、より深く、もっと深く、進むことができます。

素材とロースターが対話しながら進みます。

その先には、濃密な質感が現れ、苦味はより重厚に、でも不思議と甘い。

飲み進めるうちに静寂が訪れるような、別の世界のコーヒーのような。

 

#9のデザイン

アイコン:極めて深い焙煎でその風味も他の深煎りとはかけ離れた存在。静けさの中に入っていくような、別の世界や時間軸へいざなわれるような感覚から、ワープするイメージを数字の輪郭をドットにすることで表現した。

カラー:#9は極めて深い焙煎のコーヒー。その味わいから連想するのはコーヒー色を通り越して淡さを呈する“一見するとただのグレー”。しかし、その中に感じられるほんのりと存在するコーヒー色。Sea of Tranquility の大地もこんな色調かと想像したい。

 

 

5. 誰かの定番-CLASSIC-であり続けるために


 

「誰かにとっての定番でありたい」

 

CLASSICシリーズはそんなシンプルな想いから生まれたブレンドです。

このブレンドたちに注ぐ熱量のあまり、ここまで長いご紹介となってしまいました。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

色々と書きましたが、難しいことは抜きで堀口珈琲のブレンドをたのしんでいただけたら本望です。

 

堀口珈琲の歴史と沿うようにさまざまな進化を重ねてきた“CLASSICシリーズ”。

これからも進化を続けるシングルオリジンと対になり、ブレンドするおいしさはこの先もかたちを変えていくことでしょう。

 

次の時代のブレンドはどこへ向かっていくのでしょうか。

堀口珈琲は、これからもブレンドのたのしさをお届けしてまいります。