たのしいコーヒー

懐が深く、ここぞという時に助けてくれるブレンド / 店舗事業部:鈴木 佑佳

懐が深く、ここぞという時に助けてくれるブレンド  /  店舗事業部:鈴木 佑佳

   

 

   

普段はブレンドを作り、お客さまにおすすめしている堀口珈琲のスタッフが自身のブレンドにまつわるエピソードを綴る連載エッセイです。

ブレンドとの出会いや思い出、わたしだけの楽しみ方、好きなブレンドのことなど、ここでしか読めない内容となっています。

この連載をきっかけに、堀口珈琲のブレンドの魅力がより多くの人に伝わり、暮らしや人生が豊かになりますように。

   

 

 

懐が深く、ここぞという時に助けてくれるブレンド / 店舗事業部:鈴木 佑佳


 

堀口珈琲の採用面接終わりに、世田谷店で初めて飲んだコーヒーが#9だった。

当時のスタッフから「うちの深煎りをあまり飲んだことがないのであれば、まずは#7ぐらいから試した方が良い」と勧められた。だが私は母と共に長年コーヒーを飲んでいて、深煎りで有名なコーヒー店の一番濃いのを飲んでみたいという思いが勝ちそのまま注文した。
ドキドキしながら飲んだ最初の印象は「ドカンとしていておいしい!」。どっしりした苦味と濃厚な質感の中からほのかな甘みが生まれる様子が、なんだか“懐が深そう”なコーヒーだなと感じた。
その後、ケーキの新メニュー開発の際にお世話になるとはこの時は思いもしなかった。

 

コーヒー専門店のケーキ作りに携わる事ができたからには、堀口珈琲のコーヒーを使用したケーキを作りたいという想いが強くあった。私が入社した当時、コーヒーを使用したケーキはモカチーズケーキしかなかったが、その想いを胸に順々に新作を生み出した。コーヒーブランマンジェ、コーヒーパンビ、あずきとコーヒーロール……。

 

 

新作ケーキを生み出すときは、まずは自分の頭の中でイメージする。イメージに合わせてパーツを組み合わせていくと大体想像通りに完成するが「コーヒーパンビ」は少し遠回りした。「パンビ」は一般的に、口当たりの軽いビスキュイ生地にクリームや果物を挟んだケーキ。クルミ入りの生地にコーヒーシロップをきかせ、さらにコーヒークリームとコーヒーゼリーを合わせたら面白いと思い、試作をしていった。

 

 

 

ところが、どのコーヒーを使用してもゼリーとクリームのバランスが良くならず、ケーキとしてまとまらなかった。素材ごとの味わいが別々にやってきて何を食べているのか分からなくなる。典型的な試作のボツパターンになった。それぞれはおいしいのに……。
何かいい方法はないかと思い悩んでいる時に、#9を使用したブランマンジェが思い浮かんだ。芳醇なコーヒーの風味とぷるぷるとした食感が、きっと、クリームと生地をうまく繋ぎ合わせてくれるに違いない!そう思い試作してみると、ケーキとしての一体感が生まれた。見た目のボリューム感はあるが、すうっと食べきれてしまう、満足感の高いケーキに仕上がった。

 

 

コーヒーをケーキのパーツに使用するなら、焙煎度はフレンチロースト以上のものが適していると私は思う。他の素材、特に乳製品と合わせるとなると、焙煎が浅めのコーヒーだとどちらか一方の味が勝ってしまったり、いやな風味が出てしまったりする。でも、焙煎の深いコーヒー、特に#9は他の素材と調和してくれる。一方的にコーヒーの風味を主張するのではなく、相手の素材の魅力を受け止めつつ、きちんと存在する。

 

こうして、いつも新作メニューを作るときは、#9の“懐の深さ”に甘えさせてもらっている。本当に頼りになる存在なのだ、いつもありがとう!

 

     

 


 

 

 
 

 

極めて深く、しっかり苦い、
でも不思議と甘い、濃密なブレンド

 

闇雲にただ深く煎れば良い、というわけではありません。
限られた素材だけが、より深く、もっと深く、進むことができます。
素材とロースターが対話しながら進みます。
その先には、濃密な質感が現れ、苦味はより重厚に、でも不思議と甘い。
発散的な、エレガントな深煎り。
飲み進めるうちに静寂が訪れるような、別の世界のコーヒーのような。

 

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鈴木 佑佳
店舗事業部 ケーキアトリエ

 

2015年入社
 
食べ歩き、旅行(世界遺産巡り)、美術館、映画が好き。
最近気づけばアンテナショップなどでパトロールしている自分がいる。
隠れた名産品を探す“わくわく”を楽しんでいる。